目覚め

「東雲先生。あんた何言ってるのかわからないよ。」

「タイムトラベルって本当にできると思ってるのかい?学者さん。」

「東雲先生、奥さん亡くして寂しかったのかい……。」

「人類の危機とか煽って、お金でもだまし取るつもりなんじゃないか!?」


父さんがひとりぼっちで立っている。時間をコントロールするだなんて、信じてもらえるわけがない。周りの人のいうこともごもっともだ。父さんは、返す言葉も無い。反論するのも疲れてしまっているようだ。僕にも、どうすることもできない。頭の固い大人に、こんなSFみたいなこと、信じてもらえるわけがない。もう誰にも助けてもらえないのだろうか、頭がおかしいと思われて、僕の周りからも人が離れて行ってしまうのだろうか……。悲しい、悲しいが、これは僕の使命、いや、運命なのかもしれない……。




ヴーヴヴー…ヴーヴヴー

 スマホのバイブで目覚める。


「はっ。」

「おはようございます。先輩。何か悪い夢でも見ていたんですか?なんだかうなされていましたよ。」

「あ、あー、夢だったのか。気分の悪い夢を見た。」

「大丈夫ですか?どんな夢だったんですか?聞いてもいいですか?」

「う、うん、父さんの夢だった。ひとりぼっちで、世界を背負って戦っていたんだ……。」

「そうなんですね。ノートからも、周りの人に信じてもらえない焦燥感みたいなのが伝わってきましたよね。でも、私たちは二人です。」

「そうだね。僕は一人じゃない。」


僕は一人じゃない、なんだか、映画の名言みたいでむず痒い。でも、それは真実だ。父さんは助けを求めていろいろな人に声をかけたに違いない。でも、誰にも聞いてもらえず、それをあきらめてしまったんだ。僕にも声をかけようとしたのだ。でも、連休中に急に親から電話がかかってきて、その時の僕は無視してしまったんだ。こんなに大変なことになっているだなんて知らずに……。


「昨日は残念でしたね。」

「そうだね。でも、今こうして僕たちは生きてるし、もう一回、挑戦するチャンスを貰ったんだ。だから、前を向いていこう。」

「そうですね。」


朝ごはんの分の食事はあまり持ってきていなかったが、幸い研究室の冷蔵庫にいくつか食べられそうなものが入っていた。コーヒーメーカーもある。この部屋は毎回巻き戻されている部屋なので、賞味期限は信じてよいはずだ。


「先輩のお父さんもここで食事してたんですかね?」

「わかんない。でも、演算室に生活の痕跡がほとんど無かったから、食事とかは外でしてたんじゃないかな?」

「そうですね。ひょっとして、ここで毎日リセットされる冷蔵庫から同じものを食べ続けていたんでしょうか?」

「そう……かもね。」


なんとなくそうなんじゃないかと思ったが、同時に、そんな悲しい生活を送っていたかと思うと、僕も悲しくなってきてしまった。


「あ、やば。」


そんなことを考えていたら、一つ大事なことを忘れていることに気が付いた。急いで柴田に電話をかける。よかった。まだ生きていた。この作業毎回やるの、なんとかならないだろうか、自動化できないものか。


少しゆっくりしたところで、一度それぞれの家に帰ることにした。シャワーも浴びたいし、着替えもしたい。夜再びここで集合する約束をして、それぞれの家に向かった。

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