リセット
「これはリセットしかない。押すよ。」
「わかりました。」
「本当に押して大丈夫かな?」
「わかんないです。でも今の状況もだいぶ危ない気がします。」
「そうだね。そうだよね。くそ、押すしかないのか……!」
僕は、目をつぶって無我夢中でボタンを押した。
その途端、部屋中に鳴り響いていたエラー音が止まり、サーバールームの機器音だけが残った。
穂高が目を開けると、横にはしゃがんで目を瞑っている西浦さんがいた。あ、コンピュータはどうなっているんだろう。
ディスプレイには、さっきと同じ画面が表示されている。計算はまわっているのだろうか。
「大丈夫……ですか?」
「どうだろう?まだわかんない。」
西浦さんも目を開けて画面を見つめる。
穂高はもう一度何かあったときのためにリセットボタンに再び手を置いた。
しばらく見つめていると、さっき見なかった画面が開いてきた。世界地図の上に無数のステータスバーが表示されていて、それぞれが徐々に増えていっている。これは、世界中と繫がっているという計算のステータスなのだろう。
世界をシミュレーションしているくらいなのだから、相当に時間がかかるのだろう。二人で何も言わず計算が進んでいくのを見守る。
更に5回くらい新しい画面が表示されて、画面がやっと止まった。体感的には1時間以上待っていた気がする。画面の右下に、「Complete...」と表示されている。
「終わったの……かな?」
「ですかね?」
コンピューターの画面を操作するが、特にこれまでと変わりがない。と言うことは、リセットがちゃんと効いて今まで通りになったということだろうか?あっ、と思い、コンピューター上の時間表示を見る。
May 3rd 2:51
と表示されている。時間がそのまま流れていたら4日の深夜のはずだが、3日に戻っている。色々作業した甲斐はなかったが、振り出しには戻れたようだ。
恐る恐る演算室を出る。周りは何事もない、夜の静寂が包んでいる。念の為受付の方までそっと行ってみたが、特に何も変わったところはなかった。
「はーー……。ビビったーー……。」
僕はここ1時間で1番深い息を吐き、1番大きな声で喋った。
「もうだめかと思いました。でもこれって多分大丈夫ってことですね。」
「多分そうだと思う。ほんとはもっと調べたいけど、もう終電も無いし、疲れすぎたから一旦休んでいいかな?」
「そうですね。そうしましょう。」
2人は研究室に向かった。そこには、2人がそれぞれ寝られそうなソファがあった。タイムリープ生活で1番寝るのに適していない場所だったが、穂高は一番深い眠りについた。
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