実戦の夜
とりあえず、色々と見ているが、時間だけが過ぎて行ってしまう。データベースだと思われる場所にアクセスはできているようだが、写真のデータベースみたいに、どれがあの人のデータだとか、これは隕石っぽいデータだ、みたいなのがわかるわけでは当然無く、どれをいじったら良いのか、そもそもいじれるものなのかがよくわからない。
それでも、父さんのノートを頼りに、それっぽいところを見つけて、それっぽい変更をしてみるところまではたどり着いた。父さんが過去にやったことと同じことだが、何かの偶然で今回は上手くいく、という可能性もゼロではない。今回は僕がやっているわけだし、バタフライ効果で何かが変わる可能性だって当然あるはずだ。
具体的には何をやっているかというと、隕石のある場所だけ、僕の部屋のように、今回の巻き戻しの対象から外すというものだ。そうすれば、一日分地球の自転が進むので当たる確率を下げられる、もしくは時期をずらして地球側で対応ができることを増やすという作戦だ。これで少しでも確率が下がれば、これをどんどん繰り返すことでもっと効果を出すことだってできるはずだ。
恐らく一通りの作業が終わったと思われたところで、もう夜9時を過ぎていることに気が付いた。まだ西浦さんは帰ってきていないが、8時間近くもずっと廊下の隅にいたのだろうか…。もう大丈夫だから迎えに行ってあげよう。
部屋を出ると、やはり電波が回復して何かの通知が鳴りまくるが、もう夜も遅いし、後で見ることにしよう。
暗くて人の気配のない建物を進み、1階に降りると、人影が見えた。
「西…浦…さん……?」
小声で声をかけるが返事がない。ライトを当てると、疲れて座って寝てしまっている西浦さんだった。
「西浦さん、おはよう。お疲れ様。」
「あ、先輩、あー、すみません。私寝ちゃってました。」
「いいよ。連日いろいろなことが起こってるもんね。疲れてるのに気が付かずにごめんね。」
「本当にすみません。多分7時くらいまでは起きてました。それまでのメモはあります。」
「そうなんだ。ありがとう。何か特別なことあった?」
「受付のおばさんは夕方6時で帰っちゃうってことと、あとは今日は掃除の人と昨日見た修理のお兄さん以外ここを通らないということがわかりました。やっぱり連休中って人がいないもんなんですね。」
「そうなんだ。ありがとう。そしたら、次回以降、割と安心して作業ができるね。」
「そうですね。あ、先輩晩御飯食べましたか?」
「いや、今まで作業していたから食べてないよ。一緒に食べよう。」
「そうですね。ありがとうございます。」
僕たちは、晩御飯を食べながら、今日二人離れ離れになって過ごしていた間に考えていたことを話し合った。人類の運命を変えるためにやれること、作業効率をどうやったら上げられるか、ひょっとして前回と今回とで何か変わっていることは無いか、他にもタイムリープしている人がいるんじゃないか?などだ。二人の会話は深夜まで続いた。
そして、運命の深夜2時がやってきた。これから再計算が始まってタイムリープが起こるはずだ。
「いよいよだね。」
「いよいよですね。」
を固唾をのんで見守る。そして、深夜2時ちょうどを指したとき、コンピュータの画面が一瞬暗くなり、画面に無数のウィンドウと文字列が表示された。いよいよ計算が始まったようだ。不安と期待をどちらも大きく膨らませながら二人で画面を見守る。
と、その時、
ビーーー!ビーーー!ビーーー!
と、これまで聞いたことの無い大きな音が部屋全体になり響いた。
画面のウインドウに次々と赤い文字で何やら長文が表示される。
これは、よくわからないけど、プログラミングの授業でうまくプログラムが回らなかったときに見た覚えのある光景だ。ひょっとして、僕がやった作業でプログラムを壊してしまったのかもしれない。
「どうしよう。」
「どうしましょう。」
キーボードを叩くが何の反応もない。それ以外にさわれそうなありとあらゆる場所を触ってみたが、音は聞けないばかりか、周りの機器まで別のエラー音を出し始めた。これは……ヤバいかも知れない。
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