第19話 暗闇の中の浴場
涼子は虚無堂でのイベントに新たな体験を加えることを決めた。今回のテーマは「暗闇の中の浴場」であり、参加者が暗闇の中で温かいお風呂に浸かりながら、五感を研ぎ澄ませ、リラクゼーションを深める体験をすることを目指していた。
このイベントに先駆けて、涼子は虚無堂の庭に移動式の浴槽を設置し、その周囲を特大の黒幕で囲んで完全な暗闇を作り出した。浴槽は温泉水で満たされ、その水はほのかに硫黄の香りがするものを選び、参加者に温泉にいるような感覚を味わってもらうことにした。
イベント当日、参加者たちは一人ずつ暗闇の浴場に案内された。彼らはゆっくりと浴槽に身を沈め、温かい水に包まれながら、目が見えない状態での感覚に集中し始めた。暗闇は視覚の情報を遮断し、水の感触、音、そして温度をより鮮明に感じさせた。
涼子は浴場の外で参加者の安全を見守りつつ、彼らがこの体験から得られるリラクゼーションと洞察について考えていた。彼女は参加者たちが浴槽から上がると、ゆっくりと彼らを暗闇から導き出し、彼らが経験したことについて話を聞いた。
多くの参加者が、「暗闇の中でお風呂に入ると、普段は気付かない水の音やその流れが非常にリアルに感じられ、非常に落ち着く」と共感を示した。また、「目を使わずに感じるお風呂の温もりが、心の奥深くに響き、日頃のストレスが洗い流されるようだった」という声も多く聞かれた。
イベントの終わりに、涼子は参加者たちに感謝の言葉を述べ、「今夜、私たちは暗闇の中でただ静かに浸かることの持つ力を体験しました。視覚を失うことで、他の感覚が敏感になり、私たち自身と向き合う貴重な時間を持つことができました」と締めくくった。
参加者たちはこのユニークな体験を心に刻み、日常生活に戻っても、今回の暗闇の浴場で得た心の平静を大切にしようと心に誓った。涼子もまた、虚無堂で提供する体験が人々の生活にどれだけ深い影響を与えるかを改めて実感し、次のイベントを企画する意欲を新たにした。
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