第141話 エドワードの性癖
天界にはパワースポットが三つある。
一つは皆も知っている『恋愛成就の泉』。
あれは舟に乗った者同士の恋愛を成就させるもの。今回はエドワードとノエルの恋路を応援するのが目的なので却下。
残る二つは、石に願いを込めて投げ入れれば叶うという滝。想い人のことを考えながら渡ると恋が叶うという橋だ。
何故こんなことを俺が知ってるかって? ノエルがサンタに聞いていたのを横で聞いていたから。
「エドワード、こっち」
「何で行き先分かるの? オリヴァー、ここ初めてじゃないの?」
「初めてなんだけど、何故か分かるんだ」
不思議なことに場所は分かる。正確には分からないが、何故かどちらに進めば目的地に到着するのか分かるのだ。
「あった」
そこには大きな滝があった。
ずっと困惑しながら歩いていたエドワードも感嘆の声を漏らした。
「わぁ……綺麗だね」
「だね。これを見れただけでも願い事叶いそう」
たちのぼる水煙に、日光とは違うが光が映えて、美しい七色の虹を描いていた。
俺はそこに落ちている大きめの石を拾ってエドワードに手渡した。
「石に願いを込めて滝に投げ入れたら叶うんだって」
「願い事か」
「恋愛の事とか良いと思うよ」
助言をすれば、エドワードは目を瞑った。そして滝に投げ入れた。
振り返ったエドワードと久々に目が合ったので、ニコッと笑って言った。
「叶うと良いね」
「う、うん」
若干嫌そうな顔を向けられた。
「はぁ……」
「あ、願い叶ったよ」
「え、早ッ。エドワード何お願いしたの?」
エドワードが森の中を指差した。その先を見ると……。
「まさか、お願いしたのコレ?」
「そうだよ。ショーン、こっち!」
エドワードが呼べば、傷だらけのショーンが駆けてきた。
どうやらエドワードのお願いは、ショーンが見つかるように……だったようだ。自分の願いを後回しにするとは、お人好しすぎる。
ショーンの傷を治癒すると、ショーンはすぐさまエドワードの腕に飛び乗った。
「もう、散々な目に遭ったよ。オリヴァーにはもう近付かないから」
プイッとそっぽを向かれ、エドワードも苦笑を浮かべた。
「はは、みんな心配してるよ。帰ろっか」
そのままエドワードは来た道を歩き出そうとしたものだから、俺は呼び止めた。
「エドワード、もう一つのパワースポットがこの近くにあるから、それだけ行ってみよう」
「良いけど」
「サンタが話してたやつ? オリヴァー、興味なさそうに聞いてたけど違ったんだ」
ショーンが不思議そうな顔で見てきたので、笑って誤魔化した。
「はは、女の子になったからかな。でも今も現に願い叶ったし、行ってみようよ」
ショーンがいるので、手を繋ぐ程度ならみーちゃんも出て来ないか。
俺はエドワードの手を取った。二人きりでは出来なかった手を繋ぐ練習のリベンジも兼ねて、恋が叶うと言われる橋に向かった——。
◇
「ほら、近いって言ったでしょ?」
滝の脇道を登っていくと、目的の橋は見つかった。距離は十メートルくらいだろうか。さほど長くはないが、今にも壊れそうな程にボロボロな木橋だ。
「見た目はアレだけど、一回渡るくらいなら大丈夫だよね。この橋は渡る時に……」
「願い事が叶うの? この橋を渡れば良いんだよね?」
「まぁ、そうだけど」
パワースポット巡り、面倒臭いのだろうか。エドワードが足早に橋の上を歩き出した。
そして、一分と立たない内に渡り切った。
「どう? 何か心境の変化というか……あった?」
エドワードに問えば、困惑しながら首を傾げた。
「どうだろう」
「あの泉が特別だっただけかな」
しかし、ノエルに会えば何かが起こるかもしれない。
「戻ろっか」
「パワースポット、もう良いの?」
「うん。付き合ってくれてありがとね」
エドワードと繋いでいた手を離せば、再びギュッと力強く握られた。
「えっと……まだ手を繋ぐ練習する?」
俺とエドワードの様子を眺めながらショーンが呆れたように言った。
「オリヴァー、せっかくパワースポットでエドワードとの仲が深まったのに、手くらい繋いであげれば良いじゃん」
「え、何で俺とエドワードの仲が深まるの?」
「はぁ……エドワードは誰の事考えながら橋を渡ったの?」
ショーンが問えば、エドワードはチラリと俺を見た。
「え、俺? 何で?」
「何でって、オリヴァーが僕にだけニコニコ……」
「ん? 何?」
「ううん……こんなに可愛い女の子と手を繋いで意識しない男がいたら聞きたいよ。ちなみにオリヴァーは?」
「俺はエドワードが……あ」
エドワードの恋が叶えば良いな。そうすればエドワードとの仲も元に戻るかも。そんな風にずっと考えていた。
「エドワードの事しか考えてなかった」
「ほら、やっぱり二人の恋が実ったんだよ。良かったね」
「いや、でもノエルは? ノエルの事はどう思ってるの?」
率直に問えば、エドワードは眉を下げて言った。
「フラれたんだ」
「え、いつの間に」
「何か最近モヤモヤしてさ、ノエルが好きなはずなのに、他にも気になる子が出来て……だから、昨日言ったんだ」
「知らなかった。ノエルは何て?」
「『執筆が佳境を迎えているところなので、申し訳ありません』って、僕の事なんて眼中になかったよ」
「いや、それは……」
ただ、話を聞いていなかっただけなのでは?
「だけど、思いの外ショックでもなくて」
「そうなんだ……」
「でさ、オリヴァーが女の子になって僕に言ったでしょ?」
「何を?」
「『エドワードのバカ!』って。なんかゾクッとしたんだ」
「は?」
「それからもオリヴァーが僕に反発する度に何故だか悦びを感じるんだ」
「やめてよ」
ドン引いていると、エドワードがうっとりとした瞳で見て来た。
「その冷ややかな目。良い……」
「良くないよ! じゃあ何で俺を避けてたの? 目も合わせてくれないし」
「避けてなんてないよ。考えてただけだよ。どうやっなら僕にも冷たくしてくれるんだろうって」
エドワードが儚げな顔になって続けた。
「知ってる? オリヴァーはジェラルドを冷めた目で見ること多いんだよ。メレディスにもかな。でもね、僕には普通なんだ。ニコニコしてる時の方が多い」
「そりゃ……」
最近の二人ときたら、愛が重たいから……。
「だからね、僕もその目を向けられたいなって。罵られたりしたら最高かも」
「うわ……」
エドワードの新しい性癖を知った瞬間だった。
「エドワード、練習とかじゃないなら手離してよ」
「その嫌そうな顔……分かったかも」
エドワードは俺の手は離さずに、恋人繋ぎにしてきた。
「このまま戻ろっか」
「え……」
これはエドワードも攻略してしまったのだろうか。一番嫌かもしれない。
「この顔しちゃダメなんだった。無表情、無表情……」
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