第139話 キースの告白

 全快した俺は、エドワードの屋敷で夕食を頂いている。それも、メレディスの膝の上で両脇にはジェラルドとリアムが手ずから食べさせてくれている。


「自分で食べられるって言ってるじゃん。それにメレディスはジェラルドのこと敵対視してなかった?」


 何故ジェラルドが俺に食べさせているのに文句一つ言わないのだろうか。


「状況が変わったからな。皆で協力することにした」


「協力?」


 よく分からないが、仲良くなったなら良いか。


「ところで、雑魚三体はどうなったの?」


 誰にでもなく問えば、メレディスが静かに言った。


「あやつらの事は忘れろ。思い出したくもない」


 ジェラルドも優しく微笑んで応えた。


「オリヴィアは優しいな、敵の事まで気にしてやるなんて」


「で、どうなったの?」


 実はこの質問は五回目だ。しかし、誰もちゃんと応えてくれない。雑魚三体の行く末については謎が深まるばかりだ。


 そして、他にも気になることが……。


「ねぇ、魔王」


「ジェネ様と呼べと言っているだろう」


「魔王が人間界に居座ってちゃまずいでしょ。色々やることあるんでしょ? 早く帰ってよ」


「……」


「ねぇ、魔王、聞いてるの?」


「ジェネ様」


「ジェネ様、来週王都で襲撃予定でしょ? これじゃあ俺が魔王の味方みたいに思われるじゃん」


 襲撃して欲しい訳ではないが、ここに居座られるのは居心地が悪い。


「襲撃はやめだ」


「え?」


「汝が我の元に来たいと言えばやめると言ったであろう?」


「いや、何回も言ってるけど、あれは違うから。妃になんてならないから」


「皆がいる手前恥ずかしいのだな」


「違うから……」


 魔王が食べている手を休め、悲しそうな表情を見せた。


「人間がいくら死んでも構わん。侵略できたら魔界の奴らは喜ぶだろう。しかし、汝が死んだら元も子もないのだ」


「魔王……」


「ジェネ様だ」


 どうしても名前で呼んで欲しいらしい。


「ジェネ様、侵略をやめてくれるのは有り難いけど魔界には帰らないの?」


「汝の刻印を消して初夜を無事に済ませたら戻るつもりだ」


「初ッ!?」


「案ずるな。陛下には指一本触れさせん。その為に皆で協力しているのだ」


 なるほど。だから皆こんなに距離が近いのか。


 魔王を光魔法で吹き飛ばしてから、すぐさま俺は結界から出て仲間の元に駆け寄った。それからというものトイレ以外は誰かが俺にピタリとくっ付いているのだ。魔王は中々俺に近付けないでいる。


 ちなみに魔王の両側ではキースとエドワードが食事中。魔王が何か仕掛ければすぐに対処出来るように警戒しているようだ。


 そんなキースとエドワード、話しかければ応えてくれる。応えてはくれるのだが、よそよそしいと言うか何と言うか、いつもと態度が違う。


 エドワードからは『近付かないで』とまで言われているので、死にかけた今も変わらないのだろう。しかし、キースまで俺を避けなくたって……。


「ねぇ、キース」


「なんだ?」


「俺の事嫌いになっちゃった?」


「うぐッ」


「き、キース大丈夫!?」


 キースが食事を喉に詰まらせてしまったようだ。メイドが急いで水を手渡し、背中をトントンすると落ち着いた。


「急に何言ってんだ?」


「そうだよ。オリヴァー、何を……」


「エドワードもだよ」


「え、僕も?」


「何かあるなら言ってよ。仲間なんだから……それとも、仲間だと思ってるの俺だけ?」


 こんな全員が集まっている所でする話ではなかったと後悔するが、言ってしまったものはしょうがない。俺は二人の返答を待った。


「仲間に決まってんだろ。ただ……」


「そうだよ。ただ……」


「ただ……何?」


 二人が言葉を詰まらせていると、ノエルが数枚の絵を机の上に置いた。


「お兄様は魔王様とのキスしか記憶にないかもしれませんが、お二人とも何度も深い口付けをしているのですよ。意識して当然ですわ」


 俺はその絵を見て赤面した。キースとエドワードは急いで絵を回収しようと席を立った。


「なッ、ノエル。言うなよ」


「違うからね! あくまでも応急処置だから。オリヴァーの事が好きでやった訳じゃ……いや、嫌いって訳じゃないんだけど」


 二人の動揺している様を横目に見ながら、リアムが呟いた。


「まさかとは思ってたけど、これは時間の問題だね。やっぱ女にしてもらったのは失敗だったかな」


 それを聞いて俺も深く頷いた。


「そうだよ、早く男に戻してもらおう! そうすれば全て解決だよ。みんな俺が女の子になっちゃったから変に意識してるだけでしょ?」


 明日にでも天界に行こう。そう提案しようとすれば、皆が可哀想な子を見る目で見てきた。後ろを振り返ればメレディスも同様だった。


「自分の魅力を分かっていないな」


 ジェラルドも俺の口にケーキを運びながら言った。


「そりゃ女の方が嬉しいけどよ、今更どっちでも良いんだよ」


「それはメレディスやジェラルドだけでしょ?」


 メレディスは普通に俺が攻略してしまった。ジェラルドとリアムに至っては恋愛成就の泉の効果も相まっているから。


 しかし、魔王は女装姿の俺に悩殺されただけ。女になったから尚のこと妃にしたいと言っているだけだ。キースとエドワードだって俺が女になったから……。


「この際、言うよ」


 キースがノエルの絵を見ながら儚げに語り出した。


「オレは前から男色に幾らか偏見を持っていたんだ……でも、オリヴァーがそうだって知ってから、理解しようとした。大切な仲間だから」


「あー」


 俺も未だにBLに対して理解はない。けれど、真剣に話をしているキースに横槍を入れるのは無粋というものだ。


「いつからか想像するようになったんだ」


「何を?」


「こういうことだよ」


 キースがノエルの絵をこちらに見せてきた。


「そしたらな、段々お前のことが気になり出して……この度、お前女になっただろ。身分の壁はあるが、男女間のあれこれでは誰からも文句言われないから良いかなって。だけど、もう相手がいるしオレなんてダメだろうなって……」


「それはつまり……?」


「お前が男の時から好きだったんだよ」


「因みに我もこの際どちらでも良いぞ。女の方が嬉しいがな」


「キースが真剣に話してるのに、魔王は話に入ってこないでよ」


 とにもかくにも、キースまで攻略してしまったようだ。ついでに魔王も。


 残るはエドワードだけになってしまった。エドワードはノエルが好きだ。だから大丈夫なはず。そう自分に言い聞かせながらノエルの絵を伏せた。

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