第134話 神様登場

 リアムと共に岸に戻ると他の仲間は、シートを敷いてお茶をしていた。そんな中、ジェラルドだけが心配そうに近付いてきた。


「大丈夫だったか? 舟から落ちたりしなかったか?」


「大丈夫だよ。それよりジェラルド、早くこれ取って」


 ジェラルドに魔力封じの首輪を外してもらおうと背を向けた。


「ああ、悪かったな」


「悪いと思ってないくせに」


 文句を言いながら首輪を外してもらっていると、ジェラルドの手がピタリと止まった。


「ジェラルド……?」


 振り返ると、ジェラルドはリアムを見ていた。リアムもジェラルドを見てニコリと笑った。


「抜けがけなんてズルいよね。僕のでもあるのにさ」


「チッ、更に上書きされちまった」


「何々? どうかしたの?」


 ジェラルドに、やや怒ったように溜め息を吐かれ、前を向かされた。


「ッたく、お前隙だらけなんだよ。外し忘れた俺も悪いけどよ」


「隙だらけって、敵なんていなかったよ?」


 魔力封じの首輪が外れ、魔力が戻ったのを感じていると、ジェラルドが首筋を触って言った。


「もう良いよ。お前、ここだけ治癒魔法かけとけよ。苛々するから」


「え? 首、怪我してる?」


 痛みも何もなかったので気付かなかった。いつ怪我したのだろうかと思っていると、ジェラルドが耳打ちしてきた。


「キスマーク付けられてんだよ」


「キ、キス!?」


「馬鹿、声でけーよ」


 思わず声が大きくなってしまったことで、まったりお茶を飲んでいたキースとエドワードもやってきた。


 ちなみに、ノエルとショーンは首輪を外してもらっている段階から、既に俺達の近くでニヤニヤしながら傍観している。


「どうしたんだ?」


「何かあったの? キスがどうとか」


「あ、いや……キ、キ、キースは元気かなって」


「オレ? 元気だぞ。オリヴァー、顔真っ赤だけど熱でもあるんじゃねーか」


 キースが俺の額に手を置こうとすれば、後ろに引き寄せられた。代わりにジェラルドの手が俺の額に当てられていた。


「こんなもんだろ」


 行き場を失ったキースの手を見ながら、リアムは呆れて言った。


「ジェラルド、独占欲が強すぎるのもどうかと思うよ」


「お前に言われたくねーよ。こんなもん付けやがって」


 ジェラルドとリアムが睨み合い、エドワードとキースは戸惑いを隠せないでいる。もちろん俺も。そんな中、ノエルとショーンは想定していたかのようにコソコソと話をしていた。


「ショーン様、効果は抜群なようですわね」


「天界のパワースポットだもんね。期待はしてたけど、これほどとはね」


「お兄様もとても嬉しそうですわね。後方支援、成功ですわ」


「次は兄ちゃんと舟に乗ってもらわないとね。奥手だから、こういう力借りないと自分からいけないみたいだし」


 この会話はどういうことだろうか……。


 この何とも言えない状況をノエルとショーンは想定していたのだろうか。考えても分からないが、ぼんやりとかかった霧の中から一つの看板が見えた。


「あれ……さっきとは違う」


 看板に書かれた文字を一読すれば、舟の上で起こった一連の出来事、今の状況にも納得がいった。そしてそれは、普通の男女の恋愛を諦めた瞬間だった。


 つまり『恋愛成就の泉』でジェラルドとリアム、それぞれと舟に乗ってしまった事で二人との恋愛が成就してしまったようだ。

 

 リアムに限っては冗談か本気か婚約する話になっていたので、これが確定してしまっただけで状況はあまり変わらない。しかし、問題はジェラルドだ。


 妹が欲しかっただけのジェラルド。結界を張る為にノエルのシナリオ通り演技をしていく内に、新たな扉を開きつつあるのではないかとは思っていた。それが今回の件で確固たるものになってしまったようだ。しかも独占欲が強いときた。


 俺はジェラルドの手からそっと逃れ、リアムに向き直った。


「とにかくさ、神様に会いに行こうよ。居場所分かったんでしょ?」


 早くこの場から立ち去らなければ。ノエルとショーンはこのままキースやエドワードとも舟に乗せる気だ。二人……いや、メレディスと魔王までいるから四人か。四人に好意を抱かれているだけでも困るのに、六人なんて考えられない。


「この中の天使の誰か? それとも……」


「ここの天使全員だよ」


「「「は?」」」


 リアムの言葉に皆が唖然とした。


「どういうこと? 神様って沢山いるの?」


「んー、山の神、川の神って言うくらいだから神自体は沢山いるかもしれないけど、僕らの探してる神様は一人かな」


 言っている意味が分からない。もう一度聞き返そうとすれば、天使達が光に変わった。その光は一箇所に集まって、こちらに飛んできた。


「何々!?」


 眩い光に目を眩ませていると、それは人の形になった。先程の天使達と容姿は異なり、腰まである金髪に銀の瞳、真っ白い服を着た中性的な男性がそこにいた。


 ここにいる誰もが見た瞬間に思ったことだろう。


「神様だ……」

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