第133話 恋愛成就の泉②
次は、天使から情報収集を終えたリアムと舟に乗った。
なんでも、リアムは舟に乗ったことがないらしい。故に自然と俺が漕ぐ事に。
「さっきもジェラルドと乗ったのに良かったの? 漕ぐの大変じゃない?」
「あー、大丈夫。ちょっと離れたかったし」
「離れたい?」
「ううん、何でもない」
親友だからか、いつも距離が近いジェラルド。舟を降りてからのジェラルドは更に距離が近いのだ。舟の上でも色々あったし、少し離れて考えよう。そう思ってリアムを誘ったのだ。
「ところで、リアム。神様分かった?」
「うーん、まだ何とも」
「そっか。リアムでも分からないなら俺なんてお手上げだね」
サンタが天界に入れれば、こんな苦労をしなくても良いのにとは思うが、入れないのだからしょうがない。せめて容姿の特徴だけでも聞いておくべきだった。
「一旦サンタの所に戻る? 聞きに行った方が早いかも」
「うーん……」
リアムは考えることに夢中になったようだ。俺の話をほとんど聞いていない。
「リアム、楽しそうだなぁ」
難解な問題程燃えるようで、リアムが活き活きとしているのが見て分かる。だが、少し様子がおかしい。先程から立ちあがろうとしては思いとどまって座り直すのだ。
「立つと危ないよ?」
「考え事する時っていつもウロウロしながらだから、つい」
「なるほど」
流石に舟の上を歩かれたら舟がひっくり返る可能性は高い。そこで俺は閃いた。
「リアム、漕いでみる?」
「え?」
「体動かしてる方が考え事しやすいんでしょ? 俺が教えるからさ、こっちおいでよ」
泉の真ん中で舟を制止させると、リアムがそっと立ち上がり、慎重に俺の元まで来た。俺は席を譲り、後ろからリアムにオールの持ち方を教えた。
「こうやって握ってみて」
「うん。だけど、舟、傾いてるけど大丈夫?」
「少しくらい平気だよ。教えたら俺、あっち行くし。ん? どうかした?」
リアムが俺の顔をじっと見つめて来た。しかも、教える為に俺はリアムの顔の真横から顔を覗かせ、片方だけだがリアムの手の上に自身の手を重ねている状態だ。つまり、密着度が高く、至近距離で見られている。
「照れるからそんなに見ないでよ」
「分かったかも」
「何が?」
「神が誰か」
「え、本当に!? わ、ごめん」
驚いた拍子に舟が揺れてしまった。
「でも何でまた急に……」
「神の容姿や性格も聞いてたんだけど、よく考えたらあれはオリヴァーの特徴そのものだ」
「へ、へぇ、そうなんだ。分かったなら、岸に戻ろっか」
「そんなに急がなくても良いじゃん。神の正体知りたいんじゃなかったの?」
「知りたいけど……リアムは何しようとしてるのかな?」
オールを握っていた手は俺の頬に当てられ、振り返っているリアムの唇が俺の唇に触れそうなのだ。
「ジェラルドともしたんでしょ?」
「まさか、見られて……? いや、でも霧も深かったし舟の上に押し倒されてたから見えない」
「やっぱりそうなんだ。二人の様子が変だから、まさかとは思ったけど。僕だけ仲間外れなんてずるくない?」
どうやら墓穴を掘ってしまったようだ。リアム相手にはこれ以上誤魔化しようがない。
「魔力封じの首輪着いてるし、どこまでやったの?」
「あ……外してもらうの忘れてた」
「そんなとこも可愛いね」
ニコッと笑うリアム。赤面する俺。この場を早く切り上げたいが、舟はリアムが退けない限り漕げない。
「僕もして良い?」
「ダメだよ」
俺は口を手で覆った。そして、そっとリアムから離れようと後ろに一歩下がると舟の重心がさらに傾いた。
「オリヴァー、舟がひっくり返っちゃうよ」
「そ、そうだね」
幸いな事に、今回は押し倒されてもいないし、俺はリアムの背中側にいる。このまま動かなければ何も起こらない。ただ、岸にも戻れないが。
行き詰まっていると、やや俯き加減に儚げな表情でリアムが言った。
「ジェラルドは良くて僕はダメなんだ……僕の事嫌いになっちゃった?」
「嫌いな訳ないじゃん! ただ、これとそれとは違って……」
「違わないよ。僕、ショックすぎてオリヴァーがジェラルドとキスしたこと、皆に喋っちゃうかも」
「なッ」
リアムが悪戯に笑った。
「言われたくないなら僕にも同じことして」
「う……リアム、ずるい」
「ほら、早くしないと霧が晴れちゃうかもよ」
俺は一歩リアムに近付いた。
「オリヴァー、緊張しすぎ。キスなんて手と手が触れ合うみたいなもんだよ」
「確かに……」
少し唇と唇が当たるだけ。なんだ、そう思えば普通に出来そうな気がしてきた。
「ほら、おいで」
「うん」
俺は目を瞑るリアムの唇にチュっとキスをした。
「よし、リアム。岸に戻ろう!」
「オリヴァー、僕はジェラルドとしたことをしてって言ったんだよ」
「なッ、したじゃん」
「本当にそれだけ? それ以上のことしてたら、優しく出来ないかもよ」
リアムは普段はとても優しい。しかし、怒らせると本当に怖いのだ。
俺は振り返っているリアムに、もう一度顔を近付けた。緊張しながら唇を重ね、ジェラルドにされたように舌を入れてみた。自分からしたことがないので、ぎこちなくなっていると、リアムが俺の頬に手を当てながら舌を絡めてきた。
「んんッ」
息が出来ない程に舌を絡みとられ音を立てながらキスされた。トロトロにされていると、顔だけこちらを向けていたリアムが体ごと俺の方を向いた。舟は揺れ、リアムの顔が離れると、俺はそのままリアムに抱きついた。
「もうダメ……」
「良く出来ました」
リアムは優しく頭を撫でてくれた。
「気持ちよかった?」
「……聞かないでよ」
「でも、困ったなぁ。一夫多夫制にするとして、ジェラルドとメレディスは上手くやっていけるかな」
あの二人は一生仲良く出来ないような気がする……。
「って、リアム。メレディスのこと気付いてたの?」
「あれだけ溺愛モード全開で来られたら誰でも分かるよ。ついでに魔王もでしょ?」
「……」
「オリヴァーは、複数人まとめてと日替わりどっちが良い?」
「何の話?」
「夜伽」
「やっぱ良い。聞きたくない!」
俺が耳を塞げば、リアムが真剣な眼差しになったので、どうしたのかと思って手を耳から外した。
「安心して。妊娠中は激しくさせないから」
「……は?」
「でもその前に、ノエルが考案した将来設計を変更していく必要があるよね」
「それは……俺が女の子になるから?」
リアムは何も言わずにニコッと笑った。
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