第124話 王家はお揃いに弱い
襲撃は、またもや夜中。
今回の襲撃はハイアット王国の王都。というより、この国は王都しかない。国民全体を合わせても三百人余りの小さな国だ。
そんな小さな国を狙っても人間界に大して痛手がないように思うかもしれないが、この国の民は優れた職人の集まりだ。
身の回りの装飾品や加工品、武器に至るまで、ありとあらゆる物を手掛けている。他国もこの国の技術を評価し、大抵の物はこの国からの輸入品。
つまりは、この国の職人がいなくなれば優れた武器を作れる者がいなくなるのはおろか、経済が回らなくなる。すぐには何の変化も見られないかもしれないが、経済が回らなければ国も弱っていく。そしてそれは人間界全域の問題となっていく。これは由々しき問題なのだ。
「今晩までに民を全員王城に避難させる手筈は大丈夫でしょうか?」
リアムが国王に問えば、国王は頷いた。
「問題ない」
俺はリアムの服をピッピッと引っ張った。
「ねぇ、何で素直に信じてくれるんだろう。リアムのお父さんから偽情報だって言われてるんでしょ?」
「ああ、それはね」
「我が国には兵士がいないのだ」
「あ、王太子様……」
誰にも聞かれていないと思ったのに、すぐ近くに王太子がいた。全然気付かなかった。
「兵士のいない我が国は周辺国に助けられながら国を維持している。ウィルモット王に警戒体制は不要だと言われたことで、他国の協力が仰げない」
「なるほど」
「今回の件が事実なら我が国は秒で終わりを迎えることになる。藁にも縋りたい思いなのだ」
「藁……」
俺達は藁扱いかと内心思ったが、最近ポッと出た冒険者を強力な戦力だと思えという方が難しい話だ。
「とにかく今回は全面僕らに任せてくれるってことだから、思う存分力が発揮出来るよ」
「そっか。ジェラルドは何だか嬉しそうだね」
「この国は俺と相性が良いらしい。一から氷を作り出さなくて良いから魔法を出すスピードも早いし、魔力もほんの少しの消費で良いんだ」
「僕は反対に魔法が使えないや」
「何で? 魔力切れ……なわけないよね」
困った顔でエドワードが手の平を上に向けた。すると、手の平から水が湧き出てきた。
「あー、なるほど」
水はその寒さから、すぐに凍った。空中で凍った水はまるで何かの作品のようで、戦闘には使えそうになかった。
「まぁ、何にせよ夜まで暇だしよ、遊びに行こうぜ」
「ジェラルド、不謹慎だよ」
「良いじゃねーか。こんな北の国に来ることなんか早々ないぜ」
「そうだけど」
怒られるかなと王太子をチラリと見れば、勘違いされた。
「王都を案内しようか?」
「えっと……」
返事に困っていると、どこからともなく元気な王女の声が聞こえた。
「私も行く!」
前髪が右分けだから……クレア王女か。
「クレアは駄目だよ。部屋にいなさい」
王太子が宥めると、クレアは頬を膨らませながら言った。
「はーい。では、シンシアお姉様なら宜しいですか? 代わりに買ってきて頂きたい物があるので」
「シンシアなら……」
「では、お姉様に伝えて参りますわね」
◇
と、いうわけで、俺達は襲撃前に観光をしている。ちなみにアーサーらは来なかった。
『王族と観光なんて御免だね。食事だけでも気ぃ遣うのに、おれは夜まで寝る』
勿論アーサーが行かなければ、その仲間は誰もついて来ない。
『悪い、オレもパス』
キースも襲撃……の前の夕食に備えてテーブルマナーをエドワードから習うことになった——。
銀細工や革製品を売っている雑貨屋に入り、俺は提案した。
「みんなにお土産買って帰ろっか」
「そうですわね。この置物なんてキース様喜びそうですわ」
「これに盗聴出来る魔道具つけられないかな? 人はこういうのに悩みを打ち明けたりするよね」
「それは名案ですわね」
弟に悩みを盗聴される兄。不憫だ。
「で、ジェラルドはさっきから何してるの?」
「どれが似合うかなって」
「どれも似合わないよ」
ジェラルドは俺の頭に様々な髪飾りを合わせているのだ。王太子から冷たい視線を感じる。
「オリヴァー、これとか結婚指輪に良さそうだよ」
「どれ? って、リアム。指輪まではいらないんじゃないかな」
リアムは俺と末永く一緒にいたいだけ。なので、俺はどうにかして結婚という形以外の選択肢を探していくつもりでいる。それなのに指輪なんて買ってしまったら後戻り出来ないような気がする。
「そうだ、リアム。これお揃いにしようよ」
俺は革製のリストバンドを手に取った。リアムは指輪とリストバンドを交互に見て、リストバンドを手に取った。
「良いね。これならみんなで着けられる」
相変わらずお揃いに弱いリアム。リアムが早速皆の分まで購入していると、シンシアがその様子を羨ましそうに見ていた。
「シンシア王女様もリストバンドが欲しいんですか?」
「あ、いえ。私は……友人とお揃いって良いなぁって」
王族は皆、お揃いが好きなのだろうか。
「でも、シンシア王女様はクレア王女様といつもお揃いなのでは?」
「お姉……クレアは友人ではないわ。姉妹ですもの」
「なるほど。では、せっかくですからこのブローチなんてどうですか? ノエルと……」
「良いわね! でも、ブローチよりあなたはカフスボタンとかの方が良いんじゃないかしら?」
「いや、俺じゃなくてノエルと……」
シンシアはあまり人の話を聞かないようだ。ブローチとカフスボタンを手に取って嬉しそうに俺に見せてきた。
「これなんて丁度良いじゃない。同じ柄だわ! これ着けて今度パーティーで一緒に踊りましょう」
「はは……そうですね」
「何? 嬉しくないの?」
「いえ、王女様とお揃いで、しかもダンスまで誘って頂けるなんて光栄の極みです」
「シンシアお姉……クレアが知ったら嫉妬するわね」
左分けだからシンシアに間違いない。しかし、先程から違和感を覚える。気のせいだろうか。
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