第123話 雪国

 辺り一面銀世界。我が国でも雪は降るが、その比ではない。


 ベシャッ。


「ハッ、そんなんでアーサーを守れると思ってんのか?」


「ここでくたばれ!」


 メガネとマッチョが手の平サイズの雪の玉を何個も俺にぶつけてきた。俺もそれに対抗して雪玉を投げた。


「こんなんでくたばるか!」


「俺も参戦してやるぜ!」


「ジェラルド、ありがとう。エドワード、もっと大きい雪玉頂戴」


「大きけりゃ良いってもんでもないんだよ」


 せっせと雪玉を作るエドワード。向こうのチームはお父さんが雪玉作り担当だ。


 そんな俺達の横でアーサーとノエルは大きな大きな雪だるまを作っている。


「目はボタンで良いかな?」


「ボタンだと目が小さすぎて、こんな顔になってしまいますわ」


 ノエルが大きな瞳を細めてアーサーに見せた。


「ギャハハ、ノエルまじウケる! もはや貴族令嬢の顔じゃねーぞ。もう一回やって、もう一回」


「こうでしょうか」


 そして、その近くではキースとリアムが小さなイグルーを作っていた。ノエルやアーサーの前世では『かまくら』と呼んでいたらしい。


「もうちょっと大きくしないと入れないだろ?」


「これくらいで丁度良いんだよ。オリヴァー、ちょっと光魔法で中照らしてくれる?」


「良いよ」


 リアムに呼ばれたので雪合戦を中断して、かまくらの中に光をポッと灯した。


「ショーン出てきて良いよ」


 リアムが一声かけると、リアムの服がモコモコと動き出し、胸元からショーンがピョコンと顔を出した。そして、かまくらの中に入って丸まった。


「ほらね、丁度良かったでしょ」


「本当だな。ぴったりだ」


 キースが仲間になった当初は、リアムはキースを一つの駒としか見ていなかった。しかし、今では良き仲間だ。


 ほのぼのしてその様子を眺めていたら、メガネとマッチョの雪玉が俺の顔面に命中した。


「おい、決着はまだついてないゼ」


「オレ達から逃げようったってそうはいかないからな」


「ちょっと呼ばれて行ってただけじゃん!」


 俺は再び雪合戦に加わった。


 ちなみに、ここはハイアット王国の王城の庭。そんな所で俺達は遊んでいる。





 一方その頃、王城の中の一室で俺達の様子を窓から眺めている少女が二人。


「良いなぁ。私も外で遊びたい」


「あんなの楽しくないわよ。中でボードゲームでもした方がいくらかマシよ」


「でも、お姉様。みんな楽しそうよ」


「クレア、お母様よ」


 二人の母は、やや怒った様子で声をかけた。


「クレア、何をしているの? あなたは体が弱いんだから、早く暖炉のそばに行きなさい」


「はーい」


「返事は短く」


「はい」


「シンシアもクレアの事気にしてあげてっていつも言っているでしょう?」


「はい、お母様」


 シンシアとクレアはチラリと窓の外を一瞥し、後ろ髪を引かれるようにして暖炉の近くで本を広げた。



 ◇



 その日の晩、王城の食堂にて。


 国王、王妃、王太子、二人の王女と共に食事をしている。


 王女二人は双子で、二人とも見分けがつかない程に顔がそっくりだ。銀髪の癖っ毛混じりの長い髪も同じで、前髪の分け目が姉のシンシアは左、妹のクレアは右といった具合に分け目でしか判断できない程だ。ちなみに二人共十六歳。


 双子の王女はキラキラと輝き可愛らしいのに対し、王太子はパッとしない。こんなことを言うのは無礼だが、本当にパッとしない顔をしているのだ。ノエル曰くモブの中のモブらしい。そんな王太子は十八歳。


 前回のブライアーズ王国よりも友好的で、俺達のことも普通に歓迎してくれている。


「キース食べないの? 体調悪い?」


 隣に座っているキースだけ食事に手を付けていないのだ。心配していると、キースが苦笑を浮かべた。


「いや、テーブルマナーが分かんねぇ」


「なるほど」


 今は皆正装なので、キースだけ平民なのを忘れていた。アーサーは平民と言っても公爵の家で育ち、その仲間もそれぞれ執事や何かしらの役割を担っていた。最低限のテーブルマナーは問題ないようだ。


 気にせず好きなように食べてと言いたい所だが、ここは他国の王城。失礼な事は出来ない。かと言って食べないのも失礼に値する。どうしたものかと思っていたら、反対隣でノエルが大きな口を開けてステーキを頬張った。


「お兄様、久々のステーキ美味しいですわね」


「ノエル、口の中に入れたまま喋っちゃダメだよ。それに小さく切り分けてから……」


「お兄様がお母様みたいですわ」


 ムッとしているノエルを見て、国王がふッと笑った。


「小さい頃のクレアを見ているようだよ」


「私はあのような事はしておりません」


「していましたよ」


 王妃も淡々と言えば、クレアもノエル同様にムッとした顔を見せた。すると国王や王妃が困ったように笑い、場が和んだのが分かった。


「ノエル嬢、おかわりもあるから好きに食べなさい」


「おかわり!?」


「ノエル……」


 はしたないとノエルに注意しようとしたが、皆の視線がノエルに移っている今がチャンスだ。俺は自身の目の前にある料理を一口サイズに切り分けた。そして、転移を使いながら素早くキースの料理と入れ替えた。


 だって、転移を使わないと王城の食卓は広くてキースの料理まで歩かないと手が届かないのだ。気付かれないように交換するにはこれしかない。


「食べかけでごめんね。端のフォークで食べたら大丈夫だよ」


「悪いな」


 それからも隙を見てはキースの料理と交換し、何とかデザートまで食べ終えることに成功。妙な達成感でいっぱいだ。

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