第122話 お揃いの懐中時計
騎士に斬られた人は、聖水と治癒魔法で何とか命が失われることはなかった。ただ、血を吸われた者が何の問題もなく日常生活を送るには二日程度かかった。
「不思議だよね。死者がゼロなんて」
「お前の治癒魔法のおかげだろ」
「まぁ、それもあるだろうけど……ゼロだよゼロ」
今回で五回目の襲撃にも関わらず死者はゼロ。今回に限っては被害が拡大する前にヴァンパイアが撤退してくれたので何とも言えないが、魔王は人間界侵略など考えていないのでは無いかとさえ思ってしまう。
「お兄様、ヴァンパイアを六体全て攻略なさるなんて素晴らしいですわ!」
ノエルが賞賛すれば、リアムもノエルを褒めた。
「こんな倒し方があるなんて僕には思いつかなかったよ。今回ばかりはノエルに感謝だね」
「あれって倒した内に入るの? 俺は不完全燃焼だよ」
戦いはしたが、剣は当たらず魔法も出せず、俺はヴァンパイアに何のダメージも与えることが出来なかった。
「何にせよ撤退させたんだから成功だよ。アーネット親子も処罰が決まったらしいよ」
そう、アーネット親子の件をリアムがブライアーズ王国の国王に抗議したのだ。他国の、それも貴族の子に奴隷の首輪と魔力封じの首輪をつけたこと、そして誘拐の件を。更には、俺を使って謀反を起こそうとしたことを報告すると、即刻死罪にすると静かに怒っていた。
アーネット親子は全ての罪を認めなかったが、チェスターの部屋から出てきたのだ。今回の計画に関する書類が。襲撃に関して半信半疑だったチェスターは二通りの計画を立てていた。
なんと襲撃が嘘の場合は街に爆弾を投下して、その騒ぎに乗じて俺を攫う予定だったようだ。
具体的な処罰については他国の事なので深入りして聞かないが、公爵の地位が剥奪されることは間違いないだろう——。
ジェラルドは魔力封じの首輪を手に持って言った。
「魔力封じなんてするからだよな」
「だよね……って、それ早く捨てなよ」
「なんか役に立つかもしんねーじゃん」
ジェラルドは乱暴に鞄の中にしまった。
「それはそうとお兄様。また有名になられましたわね」
「え? 今回はそんな功績残してないよ。必殺技も使ってないし」
した事と言えば、ニンニクと十字架を配りながら光魔法をかけて回ったくらいだ。
「国王様が心配なさっていましたの」
「何を?」
「ヴァンパイアは消滅した訳ではないので、『再びヴァンパイアが国を襲ってきたらどうすれば良いのだろうか。光魔法を使える者もおらんから、民が操られてこの国も終わりじゃ』と」
確かに、あり得ない話ではない。
「ですので、対策として家庭には常にニンニクを常備。そして首には十字架を下げる提案を致しましたの」
「うん。良い案だね」
「それでも不安だと仰いますので、こちらを提供致しましたわ」
ノエルが手の平サイズの額に入れられた肖像画を出してきた。
「え、まさかコレを?」
「はい。一人ひとつずつ持ち歩くよう民に命じて既に皆さんお持ちですわ」
その肖像画とは、言わずもがな俺だ。しかも金髪長髪の真っ赤なドレスを着た俺。
「攻略されたヴァンパイアは、お兄様に見られていては浮気出来ませんからね」
「国王もオリヴァーに感謝してたよ。ちなみに、僕達のも作ってくれたんだ」
「何を?」
リアムがポケットから懐中時計を取り出した。蓋をパカッと開けると……。
「やめてよ、恥ずかしい! しかも何でみんなも持ってんの!?」
仲間はもちろん、アーサーらまで全員が持っていた。
「僕とジェラルドしか懐中時計持ってなかったから、待ち合わせとか時間伝えるの不便だったでしょ? 今回褒美に何かくれるって言うから懐中時計にしてもらったんだよ」
「なるほど。これでみんな正確な時間に集合出来るね……って、違うよ。何で俺の肖像画つきなのかってことだよ」
「俺達の力じゃ、ヴァンパイアには敵わねーしな」
「ついでに女避けにもなるよな。オレには可愛い婚約者がいますって逃げられるぞ」
「キースまで……」
脱力していると、部屋の隅の方で念仏のようなものが聞こえてきた。
「「死ね死ね死ね死ね……」」
メガネとマッチョが懐中時計を見ながら呟いていた。二人に呪われている。
「ちなみに、メレディス様も泣いて喜んでいましたわよ」
「メレディスにもあげたんだ」
これだけ皆に渡っているのだから驚きもしない。そう思っていたら、ノエルが皆に聞こえないように耳打ちしてきた。
「メレディス様にお兄様から口付けしたとお聞きしましたわ。お兄様も隅に置けませんわね」
「なッ、あれは違うから。俺からじゃなくて当たっただけで」
「何が当たったんだ?」
「ジェ、ジェラルド、何でもないよ。もう、早く次の国行こうよ。荷造りも終わったでしょ?」
次は寒い寒い北の国。防寒グッズを購入し、準備も万端だ。
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