第120話 上目遣い禁止令

 誰でも良いから助けて欲しい、そう思ってポツリと呟いた。するとメレディスが現れた。


「貴様ら、私の嫁に一体何をしておるのだ!」


 メレディスが般若の形相で叫べば、ヴァンパイア六体が一斉に俺から離れた。


「メ、メレディス様」


「申し訳ございません……」


「私、妾に選ばれました!」


 メレディスがギロッと俺を見た。すかさず首をぶんぶんと左右に振った。


「違うらしいぞ」


「そんな……あれほど気持ち良いと鳴いていたのに」


「オリヴァー、どういうことか説明してもらおうか。それに、この格好……」


 怒っていたメレディスが一変、優しい眼差しへと変わった。


「最近会いに来なかったから、私を嫉妬させようと……それでこんな格好でこんなことをしたのか」


 メレディスが勘違いしている。しかし、ハニートラップを仕掛けたと正直に言えば恐ろしいことになりそうだ。やめておこう。


「メレディス……会いたかった」


 ギュッと抱き付けば、頭をポンポンと撫でられた。


「そうか、そうか。そんなに私に会いたかったのか」


「うん、凄く!」


 会いたかったのは素直な気持ち。だって、これ以上ヴァンパイアの相手は正直キツい。刻印のおかげで最後まで犯されることはないはずだが、それでも嫌なものは嫌だ。


 そして、抱きついたのは助けてくれたメレディスへのちょっとしたサービス。しかも、効果は抜群だ。


「貴様ら、人間界には二度と来るな! 今すぐ立ち去れ!」


 メレディスがヴァンパイアに激怒すれば、ヴァンパイアは慌てふためいた。


「しかし、王命でして……」


「王命に逆らえばどうなるか」


「関係ない! 貴様らは私の嫁に手を出したのだ。死をもって償っても良いのだぞ? さぁ、ここで死ぬか王命に逆らって死罪になるか、どちらか選べ」


 それはどちらも変わらないのでは……とは、言えなかった。


「そこまでにしてやれ、メレディス」


「「「魔王様!」」」


 久々の魔王登場だ。いつの間にか後ろに立っていた。


 ヴァンパイアは魔王に平伏し、魔王は俺の顔をうっとりとした目で見てきた。


「メレディスが急にいなくなったと思えば……これは良いものを見させてもらった。やはり、我のモノにならんか」


「や、メレディス」


 恐怖のあまり、俺はメレディスに更にギュッと抱き付いた。


「陛下、嫁が怖がっております。そんなイヤらしい目で見るのはおやめ下さい」

 

「イヤらしいとはなんだ。それより汝、魔力が全く感じられんが?」


「あ、そうだった。これ外してくれない?」


 そう言うと、魔王が俺の金髪の髪をかき分けた。


「痛ッ、やめてよ」


 魔王がカプッと首筋を噛んだのだ。何故かみーちゃんが出てこない。


「やはり、この首飾りのせいで精霊が出て来られんらしいな」


 その事実をヴァンパイアに知られていなくて良かった。魔王が噛んでもみーちゃんが出て来ないということは、ヴァンパイアに噛まれても出て来ない。つまり、血を吸われて死ぬかヴァンパイア化するか、若しくは……。考えるだけで恐ろしい。


「そういえば、どうしてメレディスは来てくれたの?」


 メレディスから一旦離れると、メレディスは残念そうにしながらも嬉しそうに応えた。


「汝が呼んだのだろう? 刻印の相手に助けを求めれば、自動的に召喚されるようになっているからな。こっちの機能は大丈夫だったのだろう」


「そうなんだ」


 それなら早く言って欲しかった。首輪をつけられた段階でメレディスに助けを求めていたのに。


「それよりお願い、早く外して!」


 メレディスと魔王どちらでも良いからと見上げれば、二人とも固まった。


「まさかチェスター? 時を止めたの?」


 チェスターを見れば、こちらに向かって手を翳していた。が、違ったようだ。魔王とメレディスが口を開いた。


「メレディス、この生き物は何だ。悪魔か?」


「何を馬鹿なことを仰いますか。悪魔は私達でしょう。オリヴァー、そんな大きな瞳をキラキラさせながら見るのは私だけにしろ。陛下まで悩殺する必要はない」


「悩殺って……してないんだけど」


「しかも、今はとても愛らしい姿をしているのだ。誰もが虜になってしまうではないか……はッ! もしや、貴様らヴァンパイアも私の嫁の上目遣いを見たのか? この尊い顔を見てしまったのか?」


 メレディスがヴァンパイアらを睨みつければ、揃って目を泳がせた。


「オリヴァー、上目遣い禁止だ。分かったな」


「いや……そんなこと言われたって」


 俺は背が低い。男性は大抵俺より十センチ以上高いのだ。顔を見て話すには上を向くしかない。自ずと上目遣いになってしまうのだ。


「それより早くこの首輪を……って、あれ? メレディス?」


 いつの間にか俺は馬に乗っていた。後ろに誰かいるので振り返った。


「チェスター!?」


 今度こそ時を操って何かしたようだ。しかも、俺の首には魔力封じだけでなく奴隷の首輪までついている。


「これからはボク達の奴隷として生きてもらう。良いね?」


「良いねって言われても……チェスター、殺されちゃうよ?」

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