第108話 禁断の恋は世界を救う
その日の晩。
ノエルとリアム、ショーンに見守られながら結界を張ることになった。
教会を貸し切って教会の中でやるらしい。月明かりに照らされたステンドグラスがキラキラと輝き、とても神秘的だ。
「今回のテーマは『禁断の恋は世界を救う』ですわ!」
「禁断の恋って……ジェラルドは俺と恋に落ちたいの? 妹が欲しいだけでしょ」
「そうだけどさ。結界破られちまったしなぁ。それに、妹はこういうことされたら喜ぶんだろ? 妹を喜ばせつつ人類を救えるって一石二鳥だよな」
「それ、喜ぶのノエルだけだから。しかも、ノエルがやられたい訳じゃなくて……」
ジェラルドに事実を伝えようとすれば、ノエルが両手をパチンと合わせて言った。
「とにかくやってみましょう。観客が少ない分、みーちゃんの出現条件が厳しいですからね。ムードで盛り上げていきましょう」
「じゃあさ、せめて俺にもシナリオ見せてよ」
ノエルが新たなシナリオを作成したのは良いが、俺にだけ見せてくれないのだ。結界を張るタイミングだけ聞いたが、これから何をされるのか全く分からない。
「オリヴァーは恥ずかしがり屋さんだからね。これ僕からのプレゼント」
「何これ。嫌だよ。俺、男なのにこんなのいらないよ」
リアムが俺の前髪にヘアピンを付けてきた。取ろうとしたら、リアムがにっこり笑顔でカツラを取り出した。
「じゃあ、これ付ける?」
「いや……それはしたくない」
「じゃあ我慢して。ジェラルドの気分も盛り上げてあげないと」
「そうかもしれないけど……ノエルは何してるの?」
「ここを編み込みにすれば……どうです?」
ノエルが手鏡を向けてきたので覗き込んだ。
「わ、女の子みたい! って、結局これじゃ女装と変わんないじゃん。まさかこの為に服もこれにしたの?」
スカートではないにしろ、女性でも着れそうなシャツとズボンを着ている。
「よくその短い髪で編み込みなんて出来たね」
ショーンの言うように、俺も内心とても関心している。そして、ジェラルドのやる気スイッチが入ったのが分かった。
「ジェラルド? なんか怖いよ?」
「オリヴィア、俺ずっとお前のこと……」
「え、何? もう始まってるの? ちょっと待って、心の準備が」
俺は思わず祭壇の方に逃げた。しかし、すぐに捕まってしまった。後ろからフワッと抱きしめられたのだ。
「ジェラルド、少し待って。ここ祭壇だし、妹演じた方が良いんでしょ。切り替えるから」
言っては見るが、ジェラルドは後ろから俺の指と指の間に自身の指を滑り込ませ、耳元で囁いてきた。
「もう待てない。お前が誰かのモノになる前に俺のモノになれ」
「いや、ジェラルドとは兄妹でしょ? 兄妹はこんなことしちゃダメだから……痛ッ」
逃げようとしたら祭壇に押さえつけられた。後ろから押さえつけられている為、全く身動きが取れない。
「ジェラルド、ここ祭壇だから。神様が見てるから」
「丁度良い。見せつけてやろーぜ」
「ハァ……ハァ……急に体が……」
「どうした?」
「熱い、体が熱くて……ハァ……ハァ……変な気分に」
今回は執拗に触られたりしていないのに。後ろからただ抱きしめられているだけなのに、体が熱くて……。
「触って欲しい」
自分から何て事を……。
「そんなこと、俺以外の奴に言ったら絶対に許さないからな」
「やっぱりおかしいよ……」
「俺達の邪魔を誰にもされないように結界張るぞ。良いな?」
そうだった。これはあくまでも結界を張るための茶番。何故こんなにエロい気分になっているのかは分からないが、ジェラルドの言葉で思い出せた。
ジェラルドが耳に吐息をかけた瞬間、ゾクッとしながら結界を張った——。
「上手くいったな」
「うん」
何となくジェラルドの結界と融合したのが分かった。そして、俺の体が変なのは変わらない。
「ジェラルド……離れないで」
「お前……」
ジェラルドが俺から離れようとすれば、何故か辛いのだ。リアムが俺に近付いて、髪に付いたヘアピンを取った。
「これ、思った以上に効果あるみたいだね。どう? 楽になった?」
「あ、うん。それ何?」
「これ、魔道具なんだよ。媚薬と同じ効果があるみたい。昨日取りに戻って正解だったね」
「まさか、それ取りに王城行ったの?」
「そうだよ。あと、オリヴァーとチェスする為かな」
「それは……」
「僕がこれ付けてって言った時は拒まず付けてね。負けた人は何でも言うこと聞くって約束でしょ?」
にっこり笑うリアムが恐ろしい。
俺は結界を張る度にこんな気分にさせられるのか?
そして、何故リアムがそんな魔道具を持っているのか。男同士体を重ねることで何故結界が融合するのか。疑問ばかりが残るが、今はこれでしか融合しない。人類の為、致し方ないのだろうか。
「ジェラルド、もう離れて良いよ」
「ああ、そうだな」
「ジェラルド?」
離れて良いと言ったのに、絡み取られた手を更にギュッと握られた。
「なんか物足りねーな」
「何が?」
「何でもない」
ジェラルドは名残惜しそうに離れた。
名残惜しそうに? まさかノエルのシナリオ通り演技をすることで、メレディス同様にジェラルドも新たな扉を開きつつあるのだろうか。いや、メレディスは普通に俺のせいだった。
それより今回結界を張るのはこの教会だけではない。今回の避難場所は三つある。つまり、あと二回同じことをしなければならない。
「お兄様、御安心を」
ノエルがニコッと笑ってピースサインをしてきた。嫌な予感しかしない。
「別のシナリオをご用意致しておりますわ。マンネリ化は致しません」
「もちろん、このヘアピン付けてやってね」
「……はい」
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