第86話 ライバル冒険者
「ジェラルド後ろ!」
「うわ、危ねッ」
ジェラルドは襲いかかるスライムを避けて、それを氷漬けにした。キースも短剣でスライムを二体同時に叩き切り、俺も負けじと聖剣で三体同時に叩き切る。
今はギルドの『スライム討伐』の依頼をこなしている最中。強くなる為には実戦が一番だ。スライムは切ったら増える。触れたら皮膚が爛れる。厄介なランクA相当の依頼だ。
しかし、そんなスライムも俺とキースの剣なら切れる。俺の聖剣で切れば浄化される。そして、キースの魔石入りの剣で切れば蒸発して消える。
「水よ、体内の水量を増やせ
エドワードもスライムの内側の水量を操り破裂させて倒している。
ある程度スライムが減り、発生場所を特定しようとしたら、どこからともなく少年の声がした。
「おい、お前らまた邪魔しに来たのか?」
「邪魔してんのはお前らだろ」
ジェラルドが言い返し、少年と睨み合った。
「もう、みんなで倒せば良いじゃん」
「そんなことしたら報酬が減るじゃねーか。なぁ」
少年は後ろにいる仲間に同意を求めると、うんうんと頷く者もいれば面倒臭そうに欠伸をしている者もいる。
実はこの少年率いる冒険者とは数日前に出会い、事あるごとに絡まれるのだ。
ジェラルドといがみ合っている威勢の良い少年の名はアーサー。俺と同じで小柄な体型だが年齢は十六歳。自称勇者。
そして、アーサーの後ろには背の高い仲間が三名。皆男性だ。
左からブレット。十八歳、紫の髪に眼鏡が特徴の弓使い。
次にデニス。十八歳、黒髪でがっちり体型の武闘家。
最後にグレッグ。スキンヘッドの中肉中背。年齢・職業不詳。見た目は皆の保護者。
名前を覚えるのも面倒なので、俺達は陰であだ名を付けて呼んでいる。ブラッドは『メガネ』、デニスは『マッチョ』、グレッグは『お父さん』。
ちなみに、アーサーだけは名前で呼んでいる。同じチビ同士、やはり『チビ』とは呼びたくない。
そんな四人はランクがB。俺よりランクが高いので羨ましい。
「お兄様! こちらからスライムが発生しているみたいですわ」
ノエルが遠くの方から俺に呼びかけると、すぐさまアーサーがそちらに走っていった。
「どこだ!?」
「チッ、横取りしてんのはそっちじゃねーか」
◇
「ノエル、安全な所にいてって言ったじゃん。スライムに襲われたらどうすんの」
「襲われてもお兄様が治して下さいますもの」
「そうだけどさぁ」
ノエルの危機感がないのはいつものことだが、とり返しが付かなくなってからでは遅いのだ。もう少し危機感を持って欲しい。
「分かってる? リアムもだよ」
「大丈夫だよ。オリヴァーが助けてくれるから」
リアムはノエルより酷い。スライムの発生箇所を間近で観察している。襲われていないのが不思議でならない。
俺もリアムに倣ってスライムの発生箇所を覗くと、川に波紋が広がり、そこからスライムが現れては地面に転がってふよふよしている。そのスライムは小さく、先程倒したスライムと違って襲ってこない。
「何で襲ってこないんだろ?」
「産まれたては攻撃力がないのかも」
「あ、くっついた」
小さいスライム同士がくっつき、一回り大きいスライムになった。
「くっついたら襲ってくるようになるみたい」
剣でスライムを突いていたアーサーがスライムに襲われた。
「熱ッ」
「ッたく、魔法が使えねーんだからお前らじゃスライム倒せねぇだろ」
ジェラルドがスライムを氷漬けにし、ついでにアーサーの皮膚が爛れた箇所を魔法で冷やした。
「そんなことない! デニスなら……」
アーサーが何か言っているが、ジェラルドはそれを無視して俺達の元に来た。
「ちょ、待てよ」
「誰が待つか。結局、これをどうにかしないと倒しても意味なさそうだな」
ジェラルドもスライムの発生元を眺めた。
「どうしたら良いんだろうね」
「川ごと凍らすか?」
「試す価値はあるけど、この波紋って川の水の波紋じゃないんだよ」
リアムが下から覗き込んだので、俺も真似てみた。
「本当だ」
よく見ると、波紋は川の水面よりやや上の空中にあった。
試しにジェラルドが氷魔法を使うと、川は凍ったのに波紋はそのままだった。
「やはり、ここはお兄様の光魔法の出番ですわね」
「光魔法ってそんな万能じゃないと思うけど」
そう言いながらも、浄化をイメージしながら光魔法を放った。
「万能だな」
波紋は綺麗になくなり、スライムは出現しなくなった。
「くそッ、また手柄取られちまった」
不貞腐れたアーサーをお父さんが宥め、その横でジェラルドが伸びをした。
「よし、帰ろうぜ。アイリス先生、待ちくたびれてんじゃねーか」
「だね」
侵略までの一ヶ月で、アイリス先生に結界の張り方を教わる予定なのだ。午前中はギルドの依頼をこなし、午後はアイリス先生の元で修行。中々忙しいが、これも人類の為。
「じゃあね、アーサー。俺達もう行くから」
俺達は時短の為、転移でその場を後にした——。
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