第80話 vs雑魚
「ヒッ……ヒック……」
「オリヴァー? 大丈夫か?」
酒で口をゆすいで吐物の匂いはとれたが、次は酒臭い。そして、ふらついて上手く歩けない。
「顔が真っ赤だぞ」
「そう? ヒック、らいじょうぶ、らいじょうぶ」
「やはり、お子ちゃまに酒は早かったか」
酒に酔ってしまった俺を、メレディスは地べたに座らせた。
「汝はここで待っていろ。ここなら鬼もすぐには来んだろう」
「メレディスは?」
「上の奴らを先に倒してくる」
「一人で、らいじょうぶ? まぁ、俺がいてもお荷物ならけか。ははは」
「たく、世話の焼ける嫁だ。大人しく待っているんだぞ」
「はーい」
◇
十分後。
上空からは闇魔法同士がぶつかり合い、大きな衝撃音が鳴り響いている。
「ハッ、ちょっと寝てた」
酒のせいで、まだ頭はふわふわしている。そんな状態で俺は立ち上がり、岩陰から少し歩いて上空を見渡した。三対一だからかメレディスがやや押されている。
「よし、加勢しよう」
俺は剣を構えた。
その状態で数十秒——。
「あ、これじゃ全然とどかないや。悪魔は光が苦手、光……」
剣を収めて両手を上に翳すと、闇の閃光が出た。
「あれ? おかしいな。でも当たった」
先程吐物をかけた雑魚Bに闇の閃光は命中した。怒りを露わにした雑魚Bは、俺が出したものよりも遥かに大きな闇の閃光を放って来た。
「凄いなぁ」
防御もせずにその攻撃を見ていると、当たる寸前にメレディスが目の前に現れた。メレディスは防御する間もなく、一身に背中で攻撃を受け止めた。
「メ、メレディス?」
「ったく、出てくるなと言っただろう」
「メレディス……羽が……羽が」
メレディスの翼が片方ちぎれている。
俺の酔いは一気にさめて、すぐさま治癒魔法をメレディスにかけた。
「何で? 何で治らないの?」
背中の傷は治ったが、完全にちぎれてしまった翼は元に戻らない。
「気にするな。ひと月もすれば新しいのが生えてくる」
「ひと月って……ごめん。本当にごめん」
俺のせいだ。俺が勝手に出て来て余計なことをしたから。
「翼を片方無くしたことで魔力が殆ど残っていない。空も飛べんし、汝を守り切れるかどうか」
「そんなことより……」
「オレらの事を雑魚呼ばわりした割に弱っちぃな」
雑魚三体がおりてきた。それらは地面には着地せず、やや上の方で俺達を見下すように止まった。
「これで終いか? やはり雑魚は貴様らではないか」
「跪いて謝るなら殺しはしないが、どうする?」
勝ち誇った顔の雑魚達を横目に、メレディスは困った顔で微笑んだ。
「メレディス……しないよね?」
「私が死ねば汝も死ぬんだ。私が誤って刻印を付けたのに、溺愛して欲しいという汝の期待にも応えられなかった。せめて命だけは守ってやりたい」
メレディスは俺に背を向けた。
跪こうとしているメレディスの前に俺は出た。
「駄目だよ、メレディス。雑魚相手に膝を付くなんて」
「なッ、コイツまた雑魚って」
「そいつはもう魔力が残ってないんだ。人間如きが粋がっても良いのか?」
「いつの時代も人間は身の程知らずだな」
自分でも身の程知らずだと思っている。悪魔三体に一人で挑もうなどと。しかし、俺は勇気ある者、勇者なのだ。
「身の程知らずで勇者が務まるか! 打倒魔王を謳っている俺が雑魚に敵わないわけがない。ちなみに、メレディスはお前らに負けたんじゃないからな。俺を守っただけだ。そこを履き違えるなよ」
言いたい事だけ言って俺は聖剣を構え、光の魔力を込めた。
「メレディス、光のシールド張って良い?」
「いや、私も戦う。嫁に守られる夫なんて示しがつかん」
「でも、魔力ほとんど残ってないって……」
俺がメレディスを不安げに見れば、メレディスはニヤリと笑った。
「私を誰の夫だと思っている?」
「まさか……」
メレディスは光の球をぽわんと出した。
「メレディス、本当に大丈夫……? 手が爛れてきてるよ」
「後で治してくれ」
そう言いながら、メレディスは光の球を空中に放った。
ドガーン!
小さい球が、空中で爆弾のように大爆発した。そして、爆発と同時にまばゆい光が四方に放たれた。
「うわ、何だこれ。熱ッ」
やはり悪魔には光魔法は効果的なようで、雑魚達の皮膚は光が当たった部分が爛れている。
「メレディス、本当に初めて? 俺より光魔法の扱い上手くない?」
「天性の才能というやつだろうな。鬼まで来たら厄介だ。早く片付けるぞ」
メレディスが閃光を放つと、直撃はしなかったが雑魚Cの翼を掠めた。バランスを崩して落ちて来た雑魚Cの翼を俺は叩き切った。
「ぐあッ! 貴様、翼を切りやがったな」
「メレディスの気持ちが分かったか!」
雑魚Cは翼を切られたせいで、魔力が一気になくなったようだ。攻撃しようとしたが何も発動しなかった。
「俺に羽を切られるなんて、やっぱ雑魚じゃん」
何も言い返さない雑魚Cに、もう一振り聖剣を振るうと翼は両方とも無くなった。
「オリヴァー、後ろ!」
メレディスの声で後ろを振り返ると、長い爪で腕を引っ掻かれた。
「グッ」
雑魚Aが、爪に付いた俺の血を舐めようとした瞬間、刻印からみーちゃんが出て来た。
みーちゃんは鉤爪で雑魚Aの顔面を引っ掻いた。続けて、口を大きく開けると真っ黒の球が出現し、それを雑魚Aに向かって放出した。
「みーちゃん強ッ」
雑魚Aはその一撃で気絶した。
「起きない内に羽切っとこう」
俺は聖剣で雑魚Aの翼を両方とも切った。
雑魚Bも、いつの間にかメレディスにやられており、戦闘不能になっていた。なので、雑魚Bの翼も勿論切り落としておいた。
「でも、何で急にみーちゃん出て来たんだろ」
「そこの雑魚Aは、相手の血を体内に取り入れることでその人の動きを自在に操ることが出来るのだ。刻印の精霊は、私と汝の血が他の誰かの中に入るのが嫌だったのだろう」
「みーちゃんが出て来てくれなかったら俺、今頃操り人形だったんだね」
「それにしても名前のセンスが無いな。可哀想に」
メレディスはみーちゃんを哀れみの目で見て撫でた。
「だが、光魔法は凄い威力だな。初めから使っていれば良かった」
感心しているメレディスだが、両手が真っ黒だ。手は治癒魔法でどうにかなるかもしれない。それよりも……。
「ねぇ、メレディスの体、透けてない?」
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