第60話 女神様

 目が覚めると、俺は女神になっていた。


「女神様、此度は村をお救いありがとうございます」


「まさか、この村に女神様がいらっしゃっていたとは」


「えっと……これは一体?」


 目が覚めると、村人達が俺に祈りを捧げていたのだ。しかも、よく見るとここは聖堂の祭壇の上。俺は神様に捧げる供物にされているのだろうか。


 さっきまでゾンビと戦っていたはずなのに、これは一体全体どうなっているのか。


 確か、村におりてきたゾンビを仲間と共に倒し、リアムらと再開した——。


『オリヴァー、ごめん。悪魔はいつの間にかいなくなってた』


『みんなが無事ならそれで良いよ。それより、これどうしたら良いんだろ』


 ゾンビを倒したのは良いが、村中死体の山だ。埋め直すにしても、これだけの数を埋めるとなると流石に俺達だけでは無理だ。そして何より……。


『俺、絶対イヤだからな! 腐った死体なんて触りたくない!』


 ジェラルドの言うように、正直俺だって触りたくはない。襲ってくるので、斬ったり殴ったりはしたが、そうでなければ触りたくない。


『浄化出来るかな』


 俺は一体のゾンビに手をかざし、念じた。するとゾンビは砂のようになって天に昇っていった。


『お前すげーよな。無詠唱なんて。しかも浄化出来たし、他のも全部宜しくな』


『他人事だと思って。これ、後何回しないといけないんだ』


 途方に暮れていると、ミラがキラキラした瞳で言った。


『お姉様凄い! まるで絵本に出てくる女神様みたい!』


 確かに今は女装したままなので女の子ではあるが、女神様は大袈裟だ。


 ミラに微笑みかけていると、ノエルが思いついたように言った。


『そうですわ、女神様ですわ!』


『ノエル?』


『絵本に出てくる女神様は、お祈りすると弱い魔物を一斉に浄化することが出来るのですわ』


『あれ御伽話だから。女神様だってただの崇拝の対象で、架空の人物だから』


 俺がツッコミを入れても、ノエルは自信満々に続けた。


『それに、長い黒髪に純白のワンピース。正に今のお兄……お姉様ですわ! 今は魔法も無詠唱でいけますし、お祈りポーズできっと村中のゾンビを浄化できますわ』


『俺本当は黒髪じゃないし……それに、お祈りポーズじゃ対象が定まらないよ』


『対象は村中のゾンビですわ!』


 無茶苦茶すぎる。ゾンビは三百体以上いるというのに。


『良いじゃねーか。駄目なら一体一体浄化していけば』


『分かったよ』


 俺は胸の前で両手を組んだ。


 そんな俺をキースとエドワードはやや哀れみの目で見てきた。


『お前も大変だな』


『頑張って』


『ありがとう。一応やってはみるけど多分無理だよ』


 俺は目を瞑って念じた。


『うわぁ』


『すげー』


 感嘆の声が聞こえてきた。目を瞑っているので何が起こっているのか分からない。しかし、分かる事がただ一つ。


『魔力切れだ……』


 俺はパタンと、その場に倒れた——。


 そして、目覚めたらこの様だ。


「女神様、うちの畑で採れる野菜です」


「女神様がそんなもん食う訳ねーだろ。こんな可愛い顔してるんだ、うちの苺を是非」


「とにかく誰か説明を……」


 あたふたしていると聖堂の扉がバンッと開いた。そこに現れた姿を見て安堵した。


「ジェラルド!」


「目ぇ覚めたか? 迎えに来たぞ」


 俺は祭壇からおりて、ジェラルドの元へ軽快な足取りで向かった。


「あ、ノエルにリアムも」


 そこには仲間が皆揃っていた。


「どうしてこんな事になってんの?」


 村人はまだ俺のことを目で追って、お祈りしている。


「お前が魔力切れ起こしたからな」


「魔力切れで何で聖堂?」


「前にアイリス先生に聞いたことがあるんだ。『私は魔力切れ起こした時は、祭壇で寝たら回復が早かったよ』って。同じ光属性だから祭壇が一番だろ」


「アイリス先生……」


 魔力切れを起こして祭壇で寝るという発想。そして、その勇気。さすが師匠だ。


「それに、村人達がお前がゾンビを浄化するとこ見て『女神様だ』って付いてきてよ。寝てる間に拝ませといたら満足するかなって。な?」


「はい! これは知名度アップのチャンスですわ」


「知名度って……俺、今どっち?」


 エドワードを見ると困った顔で笑った。


「そのまま来たから……」


 恥ずかしい、恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。女装する変態な勇者だと思われる。


「出よう! 早くこの村から出よう!」


「オリヴァー、待てよ」


 まだ一つの村なら無かった事にできる。あれは幻だったと思ってもらおう。


 俺は急いで聖堂から出た。まばゆい光に一瞬目が眩んだ。


「やっと出てきた」


 逆光で顔が見えないが、聞いたことのある声だ。


「良くこんな所に長時間いられるな。さぁ、行こう」


 その人が近付いてくると、頭で太陽が隠れ、顔がはっきり見えた。


「悪魔……?」

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