第42話 ショーンのSOS

 俺達はまた山を登っている。しかも山頂を目指して。魔石採取や野盗捕縛の為ではなく、キースを助けに行く為に。


 —— ショーンのことを考えると野盗捕縛に再挑戦する気にもなれず、ギルドの依頼を引き受けることにした俺達。


 依頼の内容は薬草採取。山の麓にあるので野盗に出会すことなくパッと行ってパッと帰れそうだからという理由で選んだ依頼。


 今回は馬を借りて来ていたので、薬草を摘んでサッと馬に乗って帰ろうとすれば、ノエルが何か見つけたようだ。


『あら? あれは……』


『魔物?』


『いえ、あれは……猫ちゃんですわ』


 この山には魔物が多いせいで野生の動物はあまりいない。迷い込んだのだろうか。ノエルの視線の先を目で追えば、その猫は怪我をしているのか歩き方がぎこちない。


『魔物にやられたのかな?』


 俺はその猫に近付いた。足を怪我しているからか近付いても逃げなかった。


『黒猫か……』


 最近黒猫を良く見るなと思いながら治癒魔法を施した。


 傷はすっかり治ったようで、軽快なステップで俺の周りを一周回ってからヒョコッと肩に飛び乗ってきた。


『お兄様、素晴らしいですわ! これはもう箒に跨って黒猫ちゃんと宅配のお仕事をするべきですわ』


『どうしてボクがそんなこと』


『そうだよ、箒に跨る意味も分かんないしさ……え?』


 猫が喋った。最近の黒猫は皆人間の言葉を喋るのだろうか。いや、ショーンは元々人間だ。つまり……。


『君も呪いに?』


『馬鹿なのか?』


 見ず知らずの猫に馬鹿にされムッとしていると、リアムが言った。


『その黒猫、噂のショーンじゃないの?』


『昨日会ったばかりなのに忘れるとは。そんなことより、兄ちゃんが! 兄ちゃんを助けて!』


 ——と言うわけで、ショーンに助けを求められた俺達はキースを助けに行くために山頂を目指している。


「ったく、何で俺達が野盗なんかを」


「ジェラルド様、仲間の危機ですわ!」


「仲間じゃねーよ」


 ジェラルドは文句を言いつつも、現れた魔物をエドワードと共に一掃しながら一緒に登ってくれている。


 なんでも、キースが山頂付近で魔物と戦っているらしいのだ。それも一人で。


 キースのスキルはカウンター。敵の攻撃を受けて、その威力を増幅しながら戦う戦法だ。故に魔物が強ければ強い程に、自身が受けるダメージも強い。今にも倒れそうな状態なのに逃げもせず戦っているのだとか。


 山頂付近なんて強い魔物しかいないはず。そんな中、一人で立ち向かうなんてどうかしている。しかし、どうやらその責任は俺にもあるようだ。


『野盗やめてよ』『お兄ちゃんが悪いことして喜ぶ弟はいないよ』


 俺がそう言ったから、キースは正攻法でレア魔石を手に入れる為、上級魔物に挑んでいるのだとか。


 レア魔石は下級魔物からもたまに出てくるが、本当にたまにだ。上級魔物からの方が出やすいのは誰もが知っている事実。


「だからって一人で行かなくても……」


「兄ちゃん仲間思いだから……それにしてもあの二人強すぎない? さっきから二人で中級魔物をバッタバッタと薙ぎ倒してるけど」


「ああ、それは……」


 ジェラルドは、ただ単純に苛々しているからだろう。野盗を助けに行くことが気に食わないのだと思う。いわゆるストレス発散だ。


 そしてエドワードには、ノエルに声援を送らせている。


 ノエルが魔物を格好良いだの素敵だの言えば、エドワードは躊躇って攻撃できない。しかし、反対にノエルがエドワードに声援を送れば、ノエルに更に良いところ見せたいが為にスピードや攻撃力がアップする。単純な男だ。


 ただ、キースが魔物を倒しながら上に登って行ったおかげか魔物の数は少ない。山を登るのでそれなりの時間は要するが、思った以上に早く山頂まで辿り着けそうだ。

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