第26話 怪現象③ 女悪魔

 エドワードもジェラルドと同様に精気が抜けたような状態になっていた。


 二人に光魔法を施すと元の状態に戻ったので、その後は宿に戻りながらあの部屋で起こったことを聞いた。しかし、何故そこで眠っていたのか、何故精気が失われていたのか理由は分からなかった。


 ただ分かったのは、あの部屋に年頃の女性が現れたこと。ジェラルドは頑なに幽霊だと言い張っているが……。そして、村の人同様に覚えてはいないが、良い夢を見たという。


「これは厄介な依頼を引き受けたかもしれないね」


「ごめん……」


 何気ない意趣返しに選んだ依頼がまさか村中の異変と関わっていたなんて思ってもみなかった。


「受けたものはしょうがないよ」


「ありがとう、エドワード」


「俺はもう失敗でも何でも良いから行きたくない!」


 恐怖で毛布を頭から被るジェラルドを宥めるようにリアムが言った。


「だったらジェラルドは僕と一緒に村の中を調査しよう。昼間に聞き込みなら平気でしょ」


「まぁ、相手が人間なら大丈夫だ」


 こうして調査二日目は別行動することになった。



 ◇



 俺とノエルとエドワードは軽く食べられる物を購入し、例の部屋で女性を待つことに。


 なので、今は既に日が暮れた遺跡の中で食事中。


「ん、これ美味しい」


 エドワードが本当に美味しそうに食べるものだから、何を食べているのか手元を覗き込んだ。


「あ、それ一個しかないやつ」


「食べる? ほら、あーん」


 リンゴのパンをエドワードに食べさせてもらっていると、ノエルがニヤニヤしながらこちらを見ていることに気が付いた。


「お兄様とエドワード様のお二人が並ぶことは少ないので新鮮ですわね」


「確かに。そう言われるとそうかも」


 何となく戦闘力の低いリアムを守ってあげないと、という気持ちになってリアムと行動することが多い気がする。最近はジェラルドがくっついているけれど。


「わたくしの事は空気だと思って好きにして頂いて結構ですからね。この機会にお二人の仲を深めて下さいませ」


「ノエルは優しいね」


「そうだね……」


 優しいとは思う。思うが、これが友情を深めろという意味ではないことを知っている為、素直に喜べないのも事実。


 何気ない会話をしていると、部屋を灯していた光がパッと消えた。


「昨日は女性が現れてから消えたんだけどな」


 月明かりが少し入るだけの薄暗い部屋の中、エドワードが臨戦態勢を取ったのが分かった。俺もそれに倣ってノエルを守るように構えた。


 扉の方から上機嫌な女性の声が聞こえてきた。

 

「まぁ、今日も来てくれたのね。私もやればできるってことね」


 コツコツとヒールの音が聞こえ、それはエドワードの方へと一直線に向かっている。


「だけど、思ったより元気そうね。何故かしら」


 月明かりだけでは何が起こっているのか分からないので、光魔法で辺りを照らした。


 途端に女性がその場に蹲った。顔は蹲って見えないが、真っ黒の髪に真っ黒のワンピースを着て背中に羽と尻尾が生えていた。角もちょこんと見えるような見えないような……。


「うぅ……」


 蹲ったまま動かないので、声をかけてみた。


「あのー、幽霊ですか?」


「うぅ、そんな訳ないでしょ」


 やや怒りながら女性が手を払う動作をすれば、再び灯りが消えた。


「誰よ、こんなの出すのは」


 光が消えると再び立ち上がってエドワードに向き直った。エドワードは相手が女性だからか斬りかかりはせず、一歩後ずさった。


「今日も良い夢見ましょう」


 月明かりの下に女性が立った瞬間、エドワードがパタリと倒れた。


「エドワード!?」


 咄嗟に駆け寄ろうとすれば、エドワードと女性が黒いバリアのようなもので覆われた。俺は、それ以上進むことが出来なかった。


「エドワードに何をした?」


「さっきからうるさいわね。子供は帰って寝てなさい」


「こッ」


 子供……。十四歳は子供ではあるが、この国では十四歳から働ける。立派な大人の仲間入りなのだ。


「それよりエドワードだ」


 暗がりの中、周囲の状況が分からない為、再び魔法で辺りを照らした。


「その攻撃はもう通用しないわよ」


「攻撃?」


 攻撃などしていないのだが。それより、エドワードは眠りについているようだ。そして、女性はそばにいるだけで何かをしているようには見えない。


「お兄様、あれは女悪魔では?」


「女悪魔?」


「だって、あの尻尾と羽、尚且つあのバリアは闇ですわ。幽霊というよりは容姿が悪魔ですわ。角は少々小さいですが」


 確かに。見たことはないが、本に出てくる悪魔の特徴にぴったり当てはまる。


「でもさ、女悪魔ってこんなに美人なの?」


「まぁ、美人だなんて分かってるじゃない。でも女悪魔だなんてひとくくりにしないでくれる? 失礼だわ」


「じゃあ、あなたは何者?」


 女性は不適な笑みを見せながら応えた。


「サキュバスよ」

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