第41話
ちりんと涼し気な音を立てて扉が開く。
扉からは少し離れた奥の四人席。
彼女がキョロキョロと店内を見渡し、俺に気が付くとニコリと笑みを浮かべた。
スラっとしたモデルのようなスタイル。
靴音を鳴らしながら、まるでランウェイのように歩いてきて、俺の正面に座った。
「いやー暑いね、相変わらず」
「夏だからな。もはや最近の日本は外に出るのが危ない。だから夏休みは一か月から二か月にするべきだな」
「それは願望が入りすぎてる気がするけど……でも、もう終わっちゃうもんね、夏休み。早かったなぁ」
夏休みにあったことを懐かしむように言う彼女。
――遠坂香子はいつ見てもカッコよく、可愛い。
何でもない商店街の喫茶店でさえ、遠坂にかかればドラマの舞台に変えてしまう。
そんな誰もが羨む女の子と二人、店内にかかる緩やかなBGMを聞いていた。
それぞれ注文を済ませ。
俺はアイスコーヒー。
遠坂はクリームソーダとパンケーキという、もはやここまで来ると「少なくない? 夕飯までもつ?」と心配になるくらいのラインナップだった。
何でもない話をしていたら、時間はあっという間に流れていき。
クリームソーダの上に乗っていたアイスが溶けて沈んだあたりで俺は切り出した。
「今日は来てくれてありがとな。急に誘ったのに」
「ううん! ちょうど暇してたし。でも藤田くんに誘われたときはびっくりしたよ。思えば偶然会うことはあったけど、待ち合わせしてっていうのはあんまりなかったしね」
「そうだな」
そうすることに気恥ずかしさがあったからこれまで誘ってこなかった。
しかし、未だに気恥ずかしさがあるものの、俺は勇気を出して遠坂を誘った。
なぜならどうしても言いたいことがあったから。
「まぁなんだ、別にかしこまって言うことじゃないんだけど……遠坂には助けられたから。だからちゃんと言って、お礼がしたい」
一呼吸おいて、俺は言った。
「ありがとう、遠坂。遠坂のおかげでちゃんと話し合えた」
俺が言うと、遠坂が優しく微笑む。
「そっか。さすがだね、藤田くんは」
「そんなことないよ。たぶん遠坂が背中を押してくれてなかったら、ずっと、モヤモヤしてたままだった。だからほんとに、感謝してる。ありがとな」
「っ! 藤田くん……はい、どういたしてまして!」
遠坂の笑顔が眩しい。
今この瞬間を写真に収めたいと思うほど魅力的だった。
「でもそっか! わざわざこのことを言うために私を誘ってくれたんだね。藤田くん、意外に真面目なところあるよね。ふふっ、普段はだらしないところばっかりなのにさ」
「意外ってなんだよ。俺はいつだって真面目だぞ? むしろ真面目すぎて柔軟さが足りないと指摘されるほどにな」
「その発言は真面目過ぎる人には出てこないと思うよ?」
「真面目過ぎてあらゆるパターンを想定してるんだよ。真面目過ぎるはすべてを網羅する。ぜひ覚えておいてくれ」
「もう、ほんとに君は変な人だね」
小さく笑う遠坂。
そんな遠坂を見て思わず頬を緩ませながらも、アイスコーヒーを一口飲む。
これからきっと、口の中がカラカラになるだろうから。
「あのさ、遠坂」
「どうしたの?」
「実はさ、今日誘ったのはお礼を言いたかっただけじゃないんだ」
「……え?」
遠坂が首を傾げる。
俺は深呼吸をして、遠坂をじっと見る。
「前に話したこと覚えてるか? もっと大きな花火を見に行こうって話」
「それはもちろん覚えてるけど」
「そのことなんだけどさ。……遠坂」
今にも飛び出してしまいそうな心臓を必死に抑え。
そらしたくなる視線を遠坂に向けたまま、俺は言った。
「俺と一緒に行かないか? 花火大会」
「……え。え⁉」
遠坂が驚いたように口をパクパクさせる。
その顔は真っ赤で、涼しい店内には似合わない。
でもきっと、かくいう俺も真っ赤だったと思う。
だってしょうがないだろ。……こういうの、初めてなんだから。
でも、遠坂から目をそらさない。
覚悟はもう決めてきたから。
カランっとグラスから耳心地のいい音が聞こえてくる。
俺と遠坂は真っ赤な顔で見つめ合い、落ち着いた喫茶店でしばらくの間硬直していたのだった。
――彼女のぬくもりに、彼は思う。
――――あとがき――――
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
不定期更新にも関わらず、こんなにも読んでくれる人がいてすごく嬉しいです……!
これにて、第五章「彼女のぬくもりに、彼は思う」完結です!
そして次話より最終章に入っていきます!
次話更新までに少し時間がかかるかもしれませんが、お待ちいただけますと幸いです!
では、次は最終章でお会いしましょう!
追記:よいお年を! そして来年も本町かまくらをよろしく…!
学校の王子様に可愛いと言い続けていたら、学校一の美少女になっていた 本町かまくら @mutukiiiti14
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