第0.5話


 どうしてこんな事になったのだろうか――?



 身に覚えのない罪を着せられ、罪人として捕らえられた後、不可解なまま無罪放免。

 身の潔白を証明?出来たとはいえ、元の生活に戻れたという訳でも無かった。

 心のどこかでは、処刑も致し方ない事だと受け入れていたのに……。


 投獄中に両親は他界した。

 不幸な事故だったと聞いている。

 真実は知らない。

 調べる術も気もない。

 両親が嫌いだったわけではない。

 むしろ家族関係は良好であったと言える。

 だからこそ知りたくなかった


 もし真実が事故で無かった場合、その原因の終着点が”僕”である可能性があるからだ。

 他殺、はたまた自殺……。

 他殺の場合、八つ当たりは出来たとしても、それは所詮八つ当たりでしかない。

 最後に咎を背負うのは僕自身なのだ。

 だからそこから目を逸らした。


 仕方なかったのだと……。


 とはいえ色々な事が重なり、自責の念に駆られ、自暴自棄にはなっていた。


 そんな中突然、王から出頭命令が掛かった。


 「やはり処刑されるのか?」と思いながら、それに少し希望を抱くという、おかしな思考。

 どうせなら最後に暴言でも吐いてやろうか?などとも考えていた――



  ◇  ◇  ◇



 それから数日後――


 僕は王城内の一室の前で立ち止まり、軽くドアをノックした。


 …………


 返事がない。


 僕は、再び、先程よりも少し強めにドアをノックした。


 …………


 …………


 やはり返事が無い。

 中には屍しかいないのだろうか?

 流石に不謹慎すぎるか。

 ……もし、そんな事態に遭遇していたら、それこそ僕の命は無いだろう。


 通達はされている筈だが、不在なのか?と、出直そうと考えた。


 だが、後で難癖つけられるのも嫌なので、念の為少しドアを開けてみる事にした。

 閉まっているだろうと思っていたのだが、予想外にドアはゆっくりと開いた。

 その事実に驚き、反射的に閉めようとしたのだが、開いているならば、中に誰かいるのか確認したくなるのも道理。


 僕は薄く開いたドアの隙間から、中の様子を伺う。

 一応、バレたら大変まずいことをしている自覚はある。


 今の視界からでは人影は見えない「やはり留守か?」と思ったところで、木の軋む音が微かに聞こえた。

 見え辛いが音の方へ視線を送る。

 そこにはだらしなくベッドに寝そべり、本を読みながら菓子を頬張る少女がいた。

 この室内でここまで横柄に振舞える人物は一人しかいない――



 僕は今日から、この国の第二王女様の従者を命ぜられた。

 第二王女アルレ・アデレード様といえば、可愛らしい外見と清楚な振る舞いで国民から愛されている人物である。

 正直僕は、あの張り付けたような笑顔があまり好きでは無いのだが……。

 だが、それはそれだ。


 そして目の前にいる人物が、そのイメージと結びつかない。

 外見的特徴は類似しているが……あっ、腹掻いてる……。

 見てはいけないモノを見た気がして動揺した僕は、静かにドアを閉めた……つもりだった。


 「誰っ!!」


 王女は声を上げる。

 焦った為、思ったよりも強くドアを閉めてしまったのかもしれない。

 くそっ!ノックの音は気付かなかったくせに!!


 僕は急いでドアから離れ、走った。

 あれ?何で僕は逃げてるんだ?普通に名乗り出たほうが良かったんじゃないか?

 今の状況では完全に不審者だ。

 これで捕まったら再び罪人か?

 理不尽……は、今に始まった事ではないが……。

 それに僕が望んでいた職業という訳ではないし、別にもうどうでもいいか。

 

 僕は足を止めた。

 全てが馬鹿馬鹿しく思えてきたのだ。


 王女が衛兵を呼び、僕を捕えるというならばそれでいいだろう。

 覚悟を決め、立ち止まり、少し待ったのだが追手の気配は無い。

 どういう事かと逆に不安になり、王女の部屋に戻ろうと振り返った――


  

 「貴方が私の従者になるという方ですか?」


 そこには身なりの整った少女もとい、見覚えのある王女がいた。


 「えっええ。はい。一応……そうで御座います」

 

 緊張し、変な言葉遣いになってしまった。

 それほどに高貴、且つ清楚な空気を纏っていた。

 さっき見たのは影武者か何かだろう。

 僕が部屋を間違えたのかもしれない。

 影武者だとするならば、流石は王族。容姿だけなら完璧だ。

 それに個室まで用意してやるとは。

 ただ、いくら人目の無い場所とはいえ、気を緩めすぎるのはプロの仕事としてはいかがなものか?



 「そうでしたか。では、御説明したい事も有りますのでこちらへどうぞ」


 王女は慎ましやかに僕を案内する。

 僕は従い、後を着いて歩く。

 王女が足を止め、僕の表情は蒼ざめた。

 辿り着いた場所は、先に訪れた部屋だ。


 「中へどうぞ」


 王女はドアを開け、僕に微笑みかけてくる。

 それはそれは清楚でおしとやかに。


 僕は引きつった表情のまま、案内に従った。

 後に何が起こるのか不安を抱きながら……。



  ◇  ◇  ◇



 と、いうのが僕の従者生活の始まりだった。


 あの後散々罵られ、侮蔑され、脅迫じみた文言で口止めされた後、本性を秘密にするという条件で従者に就くことを許可された。

 どうせならクビにして欲しかったと内心では思っていた。

 妙な事になったと心底後悔したが、今となっては何というか……。


 月日というものは不思議なものだ……。

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