第95話


 先に進む僕の前に現れたのは、地面に掛かれた魔法陣。

 脇には陣の中に入れと指示する看板もある。

 従う他ないか……。


 ”この場面で精神干渉系の障害とかは嫌だなぁ”と、不安を抱きながら、恐る恐る陣の中へ入る。

 僕が中央に立つと、突然周囲の景色が歪み始めた。


 視界の変化だけでなく、体の感覚が不明確になり、宙に浮くような錯覚と同時に押しつぶされる様な圧迫感。

 一瞬、意識を失い掛けた。

 五感に意識を集中し持ちこたえると、次第に違和感は薄れ、視界も元に戻る。


 改めて周囲を見回し気が付く、ここはスタート地点であった特設ステージだ。



 「先に戻ってきたのはパーン様です!!」


 と、未だ状況の飲み込めていない僕の耳に、拡声された司会の濁声と観客の盛大な歓声が聞こえてきた。

 整理して考えると、これはつまり、ゴールに近づいたという事で間違いないのだろう。

 それもトールスよりも先に。


 司会の口振りと歓声から推測した。

 となると、先の魔法陣は転移魔法陣!?

 超高等魔術だ。

 生きている間に体感できるとは!!という事に感動したが、まさか今回のような催事?にて使われた事には驚きを通り越して、少し呆れた。

 深読みすると、今回の決闘自体が何かの実験だったのではないだろうか?

 体験できた事は嬉しいが、安全性は確認されていたのか?

 まだ少し気持ち悪い。


 ともあれ、今すべき事は一つだろう。


 僕はまだ不安定な感覚のまま、よろめきながら魔法陣を出た。



 「さあ、ゴールは目の前のステージです。最後の力を振り絞って下さい」


 司会の声が届く。

 概要が理解出来て、僕はステージを目指し足を踏み出すと――


 僕の左方向、やや離れた場所にまばゆい光が発生する。

 一瞬、気を取られ凝視してしまった為、視界が白けた。

 徐々に目が慣れ、視界が戻ると、そこにはトールスの姿があった。

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