5
あれからタクシーで追うこと、およそ20分。やがて、りおねを乗せた車は、ある住宅街の一角は、一軒の宅の前で止まりました。
かたや、怪しまれぬようワタシたちは、りおねたちが同宅内へ入っていく様子を尻目に、少し先でタクシーを下車。そして、あらためて戻って見るに、その緑の庭の向こうに佇むのは、小洒落た外観の2階建てです。
「とりあえず、庭から中を覗いてみましょう」
芹澤氏たちを伴い、まもなくワタシは庭の中へ。こっそりと進んで、その建物の窓に身を寄せました。
これ幸い。日中とはいえ、電気が灯っているので、このレースのカーテン越しにも室内がよく見えます。
ふむふむ、先の男女とりおね、さらにカメラを手にした者その他数名が、一見ごく普通の家具など配された中に佇んでいるな。
ええ、その室内の生活感のなさからして、ここは所謂『ハウススタジオ』のようですね。
ということは、面接に行ったばかりにも、もうさっそく撮影に入る訳かー。果たしてりおねは、ここで、どんな写真を撮られるのでしょうか。
もちろん、いかがわしいものなら大歓迎…あいえ、すぐに乗り込んで、阻止してやるわい。
なんてワタシが意気込む最中、例の女性と共にりおねが、別室のドアの中へと入っていきました。
なんだなんだ。あのドアの向こうで、なにをしようっていうんだ。
と、ヤキモキするワタシの背後で、不意に言い出したのは大門さんです。
「しかし、早置さん…あれが、あの少女が本当に、りおねお嬢様なのですか」
「え、ええ。初めはワタシも驚きましたが…」
芹澤さんを脇に、ワタシは大門さんを僅かに振り返りました。
まあ、彼が疑うのも無理はありません。なんたって、あの姿ですからね。急に。
「ここからでは、はっきりとは見えませんでしたが…でも、子供の頃のお嬢様に、佇まいや体型がよく似てらっしゃることは確かです」
そう、大門さんはともかく、この芹澤さんは、もう15年にも亘ってりおねの父上のガード役を務めてらっしゃるだけに、当時の彼女のことも、よく知っているのです。
「あとで近くで見れば、もっとよく分かりますよ。本当に」
などと、やり取りしつつ、15分も待ったでしょうか。再びりおねが、先の女性ともども、そのドアの向こうから現れました。
うっ、と。あの身に纏ったエプロンドレスといい、頭の大きなリボンといい、はたまた白のニーハイといい、あれは俗に言う『アリスコス』ではありませんか。
あうっ、こりゃたまらん…じゃなくって、まあ、あの格好ならひとまず安心でしょうか。フツーに、美少女モデルって感じですしね。
ほっ…と、ワタシが撫で下ろす一方、いよいよ撮影が始まるようです。撮影監督らしき中年男の誘導によって、りおねが近くのソファに腰かけました。
すると彼女は、同じく男の身振り手振りに倣って、首や上体を捻ってみたり、両の拳を顎に当ててみたり、はたまた脚を組み合わせてみたりと、様々なポーズで写真を撮られていきます。
そして…
ソファ以外の場所でも、同じく調子で写され、撮影終了。誰ともなく、ひと息つくのが見ていて分かります。
それはそれは、和やかな雰囲気。そういえば、『その手』の者らしき怪しい人物も見当たりませんし、どうやらワタシの思い過ごしだったようです。
そんな、いかがわしい撮影ではなかった…
「…ええっ?! なんじゃありゃ!」
安心したのも束の間。ややあって、別のドアの中から現れた男の姿を目に、思わずワタシは小さく叫んでしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます