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「…いやー、お忙しいところを、お呼び立てしてしまいまして…」


「いえ、どうぞお気になさらずに。りおねお嬢様の危機とあれば、我々としては、なにがあっても駆けつけねばなりませんのでね」


 1台の高級セダンの中、びしっとスーツ姿の御仁が、助手席からワタシを振り返ってきます。


 その精悍な顔立ちの彼は、芹澤五郎氏。現在38歳。


 なにを隠そう、りおねの父上のボディガードを務める御仁です。 


 やはりスーツ姿で運転席に収まる大男、大門恒夫氏(34歳)も、また然り。


 ええ、まあ。ワタシもよく知るりおねの父上は、実は、こういった方々を雇う立場の人なんです。


 いえいえ、決して人に言えぬような職業の方ではありませんよ。あくまで健全な御仁です。 


「ところで、クドいようですが、このことはりおねのお父さんには…」


「ええ、分かっております。本来なら、職務において我々は、何事も包み隠さず会長に報告する義務がありますが、この度は事情が事情ゆえ、内密にしておきますのでご安心を」

 

 ワタシの懸念を払拭する、ありがたき芹澤氏のお言葉であります。


「ありがとうございます」


 なにせ、りおねが子供の姿に戻った上に、妙な仕事の面接に行ったなどと知った日には、ダブルショックで、ひっくり返るかも分かりませんのでね。彼女の父上は。


 厳格にして、非常にりおねを可愛がっているだけに、なおさらです。


 さて、まもなく車は隣町のチロリン駅前に。それを近くのコインパーキングに止めた後、徒歩にて所在をたどれば…あったあった、ありましたよ。向こうの雑居ビルに、かの映像会社の看板が。


 かくして我ら3名は、この歩道上を行き交う人々の間をすり抜け、同ビルに近づいていきます。


 おっと、そこでちょうど、そのビルから出てきたのは…はい、間違いなくりおねです。


 かと思えば、なにやら2人の男女ともども彼女は、同じくして目の前の路肩に滑り込んできた、1台のワゴン車に乗り込みました。


 うぬぬ、あの男女ったら、りおねを一体どこへ連れていくつもりだ。


「後を追いましょう」


 と、芹澤、大門両氏を促してはみたものの、あえて言わずと、我々が乗って来た車はパーキングの中です。


 が、


「タクシーっ…」 


 さすがは芹澤さん。すかさずタクシーを捕まえました。


 さあ、これにて追跡開始。我ら一同、そのタクシーに、急ぎ乗り込みました。

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