第46話 御馳走は、まさかの──

 大丈夫、私達ならできる。今までたくさん作ってきたんだから。


「不安な気持ちがない──と言ったら嘘になるけど、こんな料理を作りたいっていうのは、心の中で浮かんでいるわ」


「私──アスキスさんが作る料理が本当に楽しみです。レシピが決まったら、私も協力するので教えてくださいね」


「私だって協力するわよっ! こうして一緒に旅してきたんだから」


「2人とも、ありがとう」


 2人と向き合って、言葉を返した。そうだ、今は2人がいる。3人合わせて、素敵な料理を作っていこう。


「なんとなく、わかってきたとおもう。今までエフェリーネや淀姫、いろんな人から学んでやってみたいこともいっぱいできた。それを、帰ったら表現したい。協力お願い!」


「当然よ」


「協力するに、決まってるじゃない!」


 元気のある2人の返事に、こっちも勇気をもらった。

 そしてヒータに向けて、にこっと笑顔を向ける。これからも、よろしくねっ!


 それからしばらくして──。


「お殿様、帰ってきたぞ。あいさつじゃ──!!」


 淀姫の元気そうな言葉を皮切りに、一気にこの場が騒がしくなった。どたどたと足音が聞こえだす。

 そういえば、ここではこの国で一番地位が高い人のことを殿様って呼ぶんだっけ。


 後で、色々と話してみよ。

 そこからうたた寝をしていたら、あっという間に夜になった。夕飯の時間だったようで、大広間に集められる。おちょこという容器から和酒という独特な風味が注がれる。それにしても、机の真ん中に大きな鉄板があるのは何か理由でもあるのかな?


 厨房の方から料理が出てきた。


「お待たせいたしました。本日の料理です」


「ありがとうございます」


 花柄の着物を着た人がお盆で運んできたもの。それは──。

 焼きそば、小麦の生地にもやし、豚肉。別の皿には茶色のソース。あと、薄くて茶色の物体。鰹節っていうんだっけ?聞いたことがある。

 そして、女の人は鉄板の下に火をつける。鉄板が熱くなるのを確認すると、薄く小麦をひき始めた。どんな料理なのかなとワクワクした気分になっていると、ヒータが何かひらめいたのかピッと指をはじいた。


「ああ、これうわさに聞いたことあるわ。名物なんでしょ??」


「知っておるのか。これはすごいのう」


「以前似たようなものを食べたことがあるのよ。焼きそばがないやつだったわね。その時聞いたのよ、焼きそばが付いているお好み焼きを広島や──」


「だめなのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」



 淀姫が慌ててヒータの口をふさいだ。すごい目力を感じる。心なしか、周囲の雰囲気がピリピリしていると感じた。着物を着た人たち、歯ぎしりをしていたり──ぽかんと驚いた表情をしていたり──。


 慌てて淀姫が耳打ちしてきた。


「これは、お好み焼きっていうのじゃ」


「え──」


 そこまで重大なことなのかな? 驚いて私もヒータも言葉を失ってしまう。だって、さっきまで明るく接していたのが、急に口を押えて大慌てに。


「あれは大阪焼きっていうの。東にある山超えた場所にある、トラ柄の国旗で、太陽の塔が名物の国。そこに大阪焼きっていうお好み焼きに似た食べ物があるってこと。似ているから、間違えちゃったのね。これが本当のお好み焼き。わかったわね」


「そうじゃ! わかったでござるな!」


 淀姫の言葉を皮切りに、ここにいる着物を着た女の人全員がこっちを見てくる。

 にっこりとした笑顔だけど、すっごい威圧感──。

 ヒータとコルルも、唖然としていた。そして、ヒータが耳打ちしてくる。


「そういえば、お好み焼きって2種類あって本家争いが激しいって聞いたわ。ここは彼らに従いましょ」


「そうなんだ。そうね」


 そして、慌てて噛みながら言葉を返した。


「そ、そ、そうですね。お好み焼きですね」


 周囲からも、一瞬解き放っていた殺気が鳴りを潜めてにっこりとした笑顔になる。それくらいデリケートな話題なのね。よかった、何とか収まった。ほっと一息ついて、お好み焼きに視線を送った。着物の人がお好み焼きを作り始める。


 一番下の生地に、けずり粉──キャベツ、もやし。それから天かすに豚バラ。

 生地が焼けたらひっくり返して──。


 今度は隣に焼きそばをいため始めた。

 少し時間が空いたのか、料理を作っていた女の人は周囲に視線を向け始める。



「手慣れた手つきよね」


「まあ、何度も作ってますから」


 こうして談笑するのも楽しい。程なくして料理が再開。炒めた焼きそばの下に、生卵を入れ──卵が焼けたらひっくり返して、その上にソースや青のり、鰹節をかけて完成。


 ソースや鰹節の香りがとっても香ばしくて食欲をそそる。


「さあ、お好み焼きを食べてみるのじゃ。美味しくてほっぺたが落ちるぞい! 召し上がってくれ」


 強く「お好み焼き」を強調して推してくる淀姫。と、とりあえず、食べてみましょ。


「鉄板からそのまま、このへらでお好み焼きを食べるとよいのじゃ」


「そうなんだ~~ありがと」


 ソースの上では鰹節が躍っている。なんか新鮮で見ていて面白い!

 へらでお好み焼きを切り分けて、箸をうまく使ってソースかかっている部分と焼きそばの部分を持った。


「じゃあ、食べてみるわね」


 甘いソースの香ばしい香り。どんな味がするのかな?

 ワクワクしながら、一口食べてみた。


 キャベツと焼きそば、そして甘辛いめのソースがとても絡まっていてとっても絶妙。


「お好み焼き、とっても美味しい」

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