第31話 面白い、招待状

「うちの国とは真逆ね」


 ブリタニカは工業化の名目で都市部に人を集めるため、農村部で魔法で効率化を行い多くの人を家族から引き離して一人で都市部に住ませるような政策をとった。

 元々独り立ちという文化が強いおかげで成功をおさめ経済的に発展していったのだが、代償として家族や共同体という文化が伝承しづらくなってしまっている。だから、都市部でもこうして家族幸せに暮らしている姿は、どこか素晴らしいものに思える。


 家族みんなで過ごす文化、これがこの王国の文化なんだっけ。家族思いで、こういった考えもいい考えだな~~。



 そして、私たちは店へと戻っていった。持ち帰った肉や果物を保存用の部屋へ運んだあたりで、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。


「あ、エフェリーネは整理の方をしてて。私が出るから」


「私も行ってみる」


 興味本位でヒータの後についていく。何があったのかな? 今日はお店は臨時休業になっているはず。

 扉を開けると、兵隊の格好をした男の人が2人。


「何の用ですか?」


「兵士さんね、何の用?」


 兵士の胸には、シチリナ王国の紋章。王国に仕えている兵士だろう。

 兵士の人は礼儀正しく頭を下げると、胸ポケットから一枚の手紙を手渡してきた。ヒータが手紙を受け取って広げて読み始めた。私も後ろから何が書いてあるか観察してみる。どれどれ……。


「ああ、今度のパーティーの食事の以来ね」


「はい、シチリナ王国だけでなく、この辺り全体の都市国家の催しです。皆さんでパーティーを開くというので、そこでご馳走するものを作ってほしいのです」


 へぇ~~確か2人は王族の料理も作っていたんだっけ。それならピッタリな仕事ね──。そう言った大役を任されるのは、素直に2人の実力だと思う。でもフラミリアは真剣な表情をしている。何か考え事をしながら、招待状の方に視線を配らせていた。


「私たちのほかに、どれくらいいるの? 料理役の人」


「フラミリア様たちの他に──4、5名ほどですね」


「え──どれくらいの人が来るの?」


「ミラン──ナポル──ラツィア── 10カ国ほどですかね」


 その言葉に、ヒータの表情が険しくなる。随分、色々な国が参加するのね。

 確か、この辺りは統一国家がなく小さい都市国家が乱立して独自に政治を行っているんだっけ。フラミリアは、心配そうに腕を組んで言葉を返す。


「ちょっと足りなくない? その人数だけじゃ無理よ。他に人いないの?」


「しかし、各国の集まりとなれば半端な品は出せません。選りすぐり料理人となると数が限られてまして……」



「まあ、半端なものを出すとどうなるかはアスキスが一番知ってるし」


「うるさい」


 ジト目で言葉を返す。古傷をえぐるな! だからこうしていろいろな国に来てるんでしょうが。もう。


「もう少し人が欲しいわね。レパートリーも豊富な方がいいし……」


 ヒータが腕を組んでこっちをじーっと見てきた。目が合った瞬間、何かアイデアをひらめいたのか、腕をポンと叩く。


「あ、そうだ」


「な、何よ」


「報酬弾むから、あんたたちも参加してみない?」


「え?」


 その言葉に思わずきょとんとなる。マジ……この辺りの人の味の感覚とかよくわからないんだけど……。というか、私達なんかが参加して大丈夫なのかな?


「いいですね。もしよろしければ、アスキス様も参加しませんか?」


 兵士の人も平然と言葉を返す。私のこと知ってるんだ。外交の時とかで会ったのかな? でも、私なんかが出て大丈夫なのかな? それにしても突然の話、どう返せばいいかわからず戸惑っていると


「大丈夫ですよ。みんなで素敵な場所にしましょう」


 現れたのはエフェリーネだった。食材の収納が終わったみたいだ。コルルとヒータもいて、エフェリーネが優しい笑みで話に入ってくる。


「構いませんよ。味の好みや細かなマナーとかは私が教えます。ですので力になってください」


「でも……」


「大丈夫よ。私のヒータと、コルルから話は聞いてる。あなたたちの腕なら、絶対大丈夫」


「私のヒータは余計よ」


 自信満々に髪を撫でながらのヒータの言葉。そこまで言ってくれると、こっちも自信が湧いてきた。

 ここまで私たちを信じてくれたんだし、それなら断るのも悪い気がする。ここは、みんなで行くしかないか。


「わかったわ。私たちも参加させて」

「了解しました」


 ということで、突然ながら参加することになってしまった。

 私達を信じてくれた2人の手前、失敗はできない。プレッシャーを感じるけど、頑張るしかない。


 そして、厨房へと移動。冷蔵室から食材を取り出して──エフェリーネの説明が入る。

 カラフルで、色とりどりの食材を真剣に見つめながら話が始まった。


「この時期で──たくさんの身分の高い人集めて──もてなすものねぇ」


「飲み物にワインを使うのは確定。時間は一週間後だから今ここにあるものや市場で変えるものをベース」


 フラミリアのその言葉、そしてチーズとトマト。それからパスタに使う乾麺が視界に入った。

 時間はあるといっても、生活があるので店を休むわけにはいかない。だから料理の試作にそこまで時間はかけられずおのずとベースは2人が作れる料理となる。


「やはり、パスタですかね……。この辺りってパスタが有名なんですよね?」


「コルルの言うとおりね。それに、サラダやステーキ、チーズにワインなんかがいいと思うわ」


 フラミリアの言葉に、心の中でうなづく。

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