第30話 足で、ふみふみ?
王都に戻って、一度ギルドへ。私やコルル、ヒータは冒険者登録してないから行くわけにはいかないが、エフェリーネとフラミリアがミノタウロスの討伐を代表で報告してきた。
銀貨が50枚も手に入り、みんなで分け合う。それから石畳の、街の人たちの人でにぎわう道を行く。繁華街を抜け、ひっそりとした海岸沿いの住宅が並ぶエリアへ。さらにしばらく歩いて、転移魔法でミノタウロスの肉が集められた冒険者の家へ。
家へ入ると、彼の母親らしい人が樽の中に入っていて、ジャンプしたり足踏みしていたりしていた。初めて見る光景、何をしているのかな?
聞いたところによると、ワインを作っている最中で、足で大きな桶に入っているブドウを踏み踏みしているらしい。足でブドウを踏むという行為に驚く。
お母さんの、息子らしき冒険者が自慢げに言う。
「面白いだろ、この地方特有の文化なんだ。こうして足でブドウを踏んで、身をつぶす。やってみると案外楽しいぞ」
「そうなんだ~~」
「私もやったことあるわ。やってて楽しいし
「フラミリアもやったことあるんだー」
ヒータの質問に、フラミリアがにやりと笑みを浮かべてくる。何か、よからぬことを考えているような顔つき。ヒータは思わず1歩引いた。
「そうよ。今度、みんなもやってみる? あ、ヒータが踏み踏みするのはもちろん、わ・たし」
「ふつうに踏むわよ。変な妄想するのはやめなさい」
フラミリアは両手を頬にあて、口から唾液を出している。恍惚とした表情。何かはわからないが頭の中ですごい妄想劇を繰り広げているというのがわかる。
「あ、でも私が踏まれる側になるのもいいかも。ということでヒータ、私を踏んで──いてっ!」
「こんな人前でいい加減にしなさいよっ! 恥ずかしいじゃない!」
顔を真っ赤にしたヒータがムキになってフラミリアを思いっきり殴った。苦笑いで見ている私たち。仲がいいわねぇ。
「ふふ。ミノタウロスの肉なら、奥の部屋の地下室に保存してあるわ。好きなだけ持って行って」
「わかりました」
そして私たちは部屋の奥へ。奥の部屋の真ん中にある床だと思っていた板を取ると、梯子があった。梯子で地下の部屋に降りる。降りて感じたのだが、寒い──体が震えて、鳥肌が立ってきた。みんな体を震わせながら両手で二の腕をぎゅっと握る。
「すいません、ここ貯蔵庫みたいに使っているんで寒いんです」
「確かに、あまり長居できる場所じゃないわね」
「エフェリーネの言うとおりだ。さっさと終わらせよう。凍えちゃうよ」
そして私たちで協力して、冷凍室の中からミノタウロスの肉を取り出した。
大丈夫かどうか不安にはなっていたが、冷凍魔法の腕が本当にいい。カチンコチンに凍っていて、鮮度が全く落ちていない。
みんなで肉を切り分けて、分け前を受け取る。確かに活躍度という点では私達やエフェリーネ、フラミリアが一歩多かった。私もこうした報酬の山分けの経験はあるのだが、彼らの言い分はごもっとだとは思う。
それでも、エフェリーネは首を横に振った。
「構いません。私一人じゃ、倒せませんでしたから。みんなで倒したんだから、みんなでちゃんと分け合いましょう」
「優しいですね、エフェリーネさん。みんなから好かれるのも無理はないです」
「え──こんなにいらないですよ。活躍したのはエフェリーネさんやアスキスさんですし」
「そうです、活躍した人が多く受け取るのが慣例ですよ」
エフェリーネはほかの冒険者にも、自分や私たちと変わらないくらいの肉を渡す。確かに、活躍度という点では私達やエフェリーネ、フラミリアが一歩多かった。私も、こうした報酬の山分けの経験はあるのだが、彼らの言い分はごもっとだとは思う。
それでも、エフェリーネは首を横に振った。
「構いません。私ひとりじゃ、倒せませんでしたから。みんなで倒したんだから、みんなでちゃんと分け合いましょう」
「優しいですね、エフェリーネさん。みんなから好かれるのも無理はないです」
そういう所、優しくて気づかいができているのはいいなって思う。他の冒険者たちは申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、自分たちの分を受け取った。気前が良くて、渡している間も笑顔を絶やさない。中には、エフェリーネに顔を赤くしている人もいる。
コルルの言うとおり、慕われる人なんだな。
こんな優しくて、人望がある人に私もなってみたい。
それから、肉を切り分けている間、家の中を見て思ったことがある。
「家族全員で暮らしているの?」
廊下を通り過ぎるおじいさんおばあさん、奥さんに子供らしき人もいる。2世帯住宅ってやつなのかな?
そう言えば、以前外交官の人がシチリナ王国はブリタニカと比べて一人立ちという文化が薄い。大人になって家族をもっても大所帯で一緒に暮らしていると言っていたっけ。
「このシチリナ王国では一般的な家族構成です。大所帯で家族みんなで過ごすのが素晴らしいという価値観が広まっているんですよ」
「そうなんだ」
「そうよ。うちの親友の人も、お兄さんの家族と両親──みんなで過ごして食事のときとかとっても賑やかなんだから」
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