第27話 激戦

 私だって、こうして戦った経験くらいはある。

 街の郊外で魔物が暴れてた時は、お忍びで参加していた。Bクラスくらいなら、自力で狩れるくらいにはなってる。


 それに、私ひとりじゃない。油断したりしなければ、十分勝てる相手だ。応戦する仲間たち、その合間をかいくぐって、距離を縮めていく。ミノタウロスが私の存在に気付いた。


 ミノタウロスは何度も、パンチを打ち下ろしてくる。

 力任せに、地面にいる私を殴りつけてきたのだ。


 パワーは強そうだけど、十分かわせそうな速さ。横に身を投げて攻撃をかわしていく。そう簡単に、食らうものですか!


 ミノタウロスが地面にたたきつけられたこぶしを振り上げた瞬間、再び私たちはミノタウロスに向かって前進。


 再び殴り掛かってくるものの、体を前転させながら前方に飛び込んでいく。

 そして、がら空きとなった胴体を一気に切り刻んでいく。何度も傷跡ができて、叫び声をあげるミノタウロス。そのまま暴れまわるようにのたうち回っている。


 そのおかげで、私たちは反撃にうまく出ることができず一歩引いたままになってしまう。初めてあった人ばかりで、うかつに近づくと同士討ちになってしまう可能性だってある。


「どうすれば、不用意に近づくとこっちまで被害が出ます」


「そうね、いいアイデアはないかしら」


 コルルと会話をしているうちにミノタウロスは体勢を立て直し、再びこっちに向かってきた。

 ドスンドスンと地響きを立てながら、重い身体で突っ込んでくる。あのパワーをまともに食らったら、ただでは済まないのはわかる。うまく立ち回らないと。


「行きますよ」


「今度こそ、けりをつけてやるわ!」


 ヒータの強気な掛け声に、周囲が反応。突っ込んできたミノタウロスにいっせいに応戦。


 エフェリーネが放った矢は、ミノタウロスの両ひざに見事命中。膝をぐらつかせてよろけるミノタウロス。


「ナイスだ、この機を逃すな!」


 冒険者とフラミリアが一気に突っ込んでいった。


 コルルが一気に切りかかる。視線をコルルに向けたミノタウロスは、無理やり立ち上がってコルルの剣にこぶしで受けた。さらに、フラミリアとほかの冒険者数人がそのスキをついて突っ込んでいくが、全員ミノタウロスに弾き飛ばされてしまった。


「力強いわね」


「そうねフラミリア。でも負けないわ。どんどん突っ込みましょ」


 そしてヒータが剣を向けると剣から雷を繰り出していく。そうだ、何度もチャレンジしていくしかない。何度も何度も。


「私の全力、食らってみなさい!! ボルテックス・バースト」


 雷は一直線にミノタウロスに向かっていったと、ミノタウロスに直撃──と思いきやミノタウロスは力任せに


 攻撃は防がれたものの、ヒータのパワーを完全に殺しきることはできず後ろにのけぞってしまった。

 そのチャンスを私は見逃さない。これなら攻撃は通る。


 深呼吸をしてから、剣に魔力を込めた。剣が紫の炎に包まれる。さあ、総仕上げよ!!

 一気に向かっていく。


 ミノタウロスの視線を振り切った私は、足下へと滑り込み、飛び上がって両足首のひざ下を切り裂いた。


 大きく叫び声をあげ、何とか立ち上がろうともがいているのだろう。

 足の筋肉をピクピクとさせている。しかし、体の構造上腱を分断させるとどうすることもできない。ただ、地面をのたうち回るだけ。これで勝負あったわ。


 そして──最後の一撃を加えていく。



「これでとどめよ!」



 剣に全力の力を込めて、剣を包んでいる炎が一層強くなる。まるで業火であるかのように。そして、大きくジャンプしてミノタウロスのこめかみのあたりに一撃を加えた。これで、脳の奥まで衝撃が走る。頭蓋骨を貫通し、深く鋭利に運動中枢たる小脳に突き刺さって、立ち上がることはできないはず。


 体をピクピクとさせ、暴れてもがくが立ち上がることができない。

 そんなミノタウロスを見て、ヒータやコルル全員に声をかける。


「ありがとう、これで大丈夫そう」


「おう! 早速輸送の準備をしないと」


「肉を運べるように、体を切断してください。私が冷凍魔法で凍らせますので、腐る心配はないです」


 エフェリーネがささやく。へぇ~~食料の保存とかに便利そうな能力ね。



 それから、エフェリーネや他の冒険者が転移魔法を使った。冷凍された肉がこの場から7割ほど消える。

 魔力の消費的に全部は無理だが、これくらいなら準備していた荷車でも運べそう。消えた肉は彼の家に送られ、魔力によって氷が溶けない温度に設定された部屋へ移動されるのだとか。


「私移動魔法使えます。全部は無理ですが──」



「確かにね、エルフの人と物々交換とかしてもいいかもしれないですし」


「あの人たち、森の美味しい食料とかに詳しいのよねっ、何か美味しそうな食べ物見つけられるといいわっ!」


 ヒータの言葉に、とても心が躍る。森の美味しいもの──ここに来るまででもカラフルで、おいしそうな果物が生っていたのを見た。食べられるかわからなかったから無視してたけど、どんな味なのかとっても気になる。

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