面倒くさい女
書籍第2巻、好評発売中です!( ̄^ ̄ゞ
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(※来栖視点)
「ほんと、去年も思ったけど……うちの文化祭って人が多いわね」
校門前だっていうのに、かなりの人の数が見える。
人の行き来が激しいせいで、制服という見分けがつくものがあるにもかかわらず誰が生徒で誰が一般の人なのかも分かり難い。
(まぁ、おかげで私の姿が目立たないわけなのだけれど……)
自分の服に視線を落とす。
ここに足を運ぶ際にいつも着ている制服じゃない。
ラフなジーンズにラフなシャツ。深く被った防止に、レンズの大きいサングラス。
(……これでいい、のよね?)
生徒として参加するのもおかしい話。
結局、一週間のお休みをいただいたけど、補修の代わりの課題をするのに三日は潰れてしまいそう。
それに、今さら自分が生徒として参加するにしては遅すぎるもの。どの面下げて? って思われるのがオチ。
それに―――
(詩織さん、ごめんなさい)
まだ、もう少し。
入江に会う勇気がないの。
だから今日は一般の人間として、文化祭を参加させてもらう。
(っていうより、なんで入江は文化祭に参加してほしいって言ったのかしら?)
会うだけなら学校の外にでも会えるでしょうに。
もしかして、自分のクラスの出し物に参加させたかった?
(まだ、会う気持ちの整理はできていないけれど……)
ここまで足を運んでおいて会いに行かないのもよくはない。
詩織さんにわざわざ足を運ばせてまで背中を押してもらったわけだし、歩きながら覚悟を決めましょう。
(大丈夫、ドラマの撮影でも上手くできてる。最悪、いつも通りに接しなくてもいつも通りを演じればいいだけ)
そう思い、私はゆっくりと学校の中へと入っていった。
制服を着るかで迷って遅くなってしまったけれど……時刻はお昼過ぎということもあって、学校の中は外で感じた以上に賑わっている。
それに、いつもなら歩いているだけで少し騒がれるはずなのに、今日に限ってそういうことはないから、少し驚いている。
(変装、しているからかしら?)
これほどの賑わいだから気が付いていない、っていうのもあるかもしれない。
ただ、横を通り過ぎる人もまったく気が付いていなくて……自惚れているわけじゃないけれど、いつも学校に来る度に視線を感じていたから、少し新鮮に感じてしまう。
(……先に、どこに行こうかしら)
詩織さんのところ? それとも、最近できた可愛い後輩のところ?
もしくは―――
(……ヤバ、い)
どこに行こうか、考えただけで心臓の音がうるさくなる。
ただ会いに行くだけなのに。遠目で見るだけでもいいかもしれないのに。
(ほんと、私……入江のこと、好きすぎでしょ)
昔助けられた、初恋の
ずっと想っていたからといって、偶像で終わる可能性だってはずはずだった男の子。
でも、実際にはそうじゃなくて。
誰であっても手を差し伸べる優しい性格のままで。
相手が幼馴染でも、見知らぬ女の子でも、年上の女の子でも関係なく。
私の好きな人は、私以外にも助けてきた。
大きくなれば変わる? って一瞬思ったことはあったけれど、彼は身を投げてでも柚月のことを助けたって聞いた。
家事もできて、勉強もできて、運動もできて、私を私として見てくれて、それが温かくて、困っている人がいたら放っておけない優しさがあって―――
(こんなの、惚れない方が無理……)
でも、それ以上に……想っている彼から、見られない方が怖くて。
彼のいるであろう教室に向かう一歩が重たすぎる。
勝負に負けるよりも、土俵に乗る前から彼の中の私が消えるのが……怖い。
(結局、私はどうした方がいいのかしら……?)
怖いって分かっていても、一度口にしてから刻もうって行動ができない。
だって、これが無駄な努力だったら? 想いがこれ以上強くなる前に今のうちに出て行った方がいいかもしれない。
きっと、あの時。
あのまま入江の話を聞いたら「そんなことはない」って言ってくれたと思う。
でも、多分……信じられていなかった。
だって、その言葉になんの確証も確信もないんだから。
(……面倒臭い女ね、私って)
まだ彼に何も与えていないのに、彼から何かをもらおうとしている。
……ほんと、惨めで卑しくて泣けてくるわ。
誰かを好きになるって、あんまり恋愛小説みたいに綺麗なものばかりじゃないのね。
(とりあえず、行くだけ行かなきゃ。ここでうじうじしてても……って、ん?)
ふと、歩いている足が止まる。
どうしてか? それは―――
『おい、今回の個人の出し物凄いらしいぞ!?』
『今やってる出し物、あの三大美少女の二人がやってるらしい!』
『嘘だろ!?』
『しかも、もう一人の一年生の子もばちばちに可愛くて歌が上手いんだ!』
『おい、急ぐぞ! このままじゃ終わっちまう!』
―――慌てて横を通り過ぎる人が、そんなことを言っていたからだ。
(……それって)
三大美少女、ってワードを聞いたことがないわけじゃない。
それが誰を指していて、自分もそのうちの一人に加えられているということを。
自然と、足が勝手に進む。
入江達がいる校舎とは別。確か、走っていった人達が向かったのは中庭の方。
ここまで来たら、少しぐらい寄り道してもいいのかもしれない―――なんてことを思って向かっているわけじゃない。
もしかしたら、入江が来てほしい理由が、これだと思ったから。
(終わる前に、行かなきゃ)
そう思って、足を進める。
中庭に近づけば近づくほど、人の数は増えていって。
―――結局、中庭に辿り着く頃には、もう誰が誰かなんて分からないぐらいの人だかりがあった。
そして―――
『も、盛り上がってますかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!!』
『『『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!』』』』』
―――中庭の最前。
そこには大きなステージがあって。
『いいねっ、ノッてきたよ愛羅ちゃん!』
『こ、これでいいのか分からないんですけどこれでいいんですか!?』
『ふふっ、好きなようにやっていただいて構いませんよ。楽しければいいんです』
文化祭とは思えないほどの熱狂の中心に、ギターやキーボード、マイクにドラムといった機材と、見知った女の子達の姿もあって。
そして―――
「はっはーッ! その調子で盛り上げろ櫻坂! どんどんテンション上げていこーッッッ!!!」
―――自分に選択する機会をくれた、彼の姿もあった。
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