第34話「決戦Ⅳ/サークルオブアビス-深淵の輪廻-」
「相手の場にのみセンチネルが存在する場合、このセンチネルはサクリファイス素材なしで召喚できる。
これが進化した私の新たな剣!
——来て! 『タキオンブレイド-ザンゲツ』!!」
時空流を纏いし遠未来のサムライが姿を表し、ビーム刃を帯びた太刀——その切先が、ムガのセンチネル『アビス・ノイズ』に向けられる。
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『タキオンブレイド-ザンゲツ』
AP2500
召喚時、周囲に時空流を発生させる。
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『アビス・ノイズ』
AP0
詳細不明ゆえに相手はこのセンチネルを効果対象に選べない。
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「くくくカカカ……タキオン——そうか、始めからタキオンか。よもやそこまで進化していたとはな、月峰カザネ!」
両手を広げて、大袈裟な身振り手振りでリアクションをするムガを半ば無視して、カザネは更なるセンチネルを召喚する。
「このセンチネルは、時空流が発生している時、素材なしでサクリファイス召喚できる。
——来て、『タキオンブレイド-シンゲツ』!」
召喚宣言と共に、控えに新たなセンチネルが出現する。
黒い鎧に身を包んだ、ザンゲツと同じく遠未来のサムライ。刀は鞘にしまったまま、己の出番を静かに待っているかのようだ。
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『タキオンブレイド-シンゲツ』
AP3000
時空流発生中、素材なしでサクリファイス召喚できる。ただし、他に自軍センチネルがいる場合、召喚ターンには攻撃できない。
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「シンゲツはこのターン攻撃ができないけど、ザンゲツには更なる効果があるわ」
「ほう! どんなだ!」
「控えにタキオンブレイドがいる場合、時空流の相乗効果で2回攻撃ができる」
即座にザンゲツは攻撃の構えを取る。
「行くわ。バトル——ザンゲツでアビス・ノイズを攻撃! 『時空斬撃』!!」
この攻撃が通ればそもそもカザネの勝利。仮に後続センチネルが現れてもザンゲツの連撃によってやはりムガの場はガラ空きとなる。
そもそもムガのフィールド残枠は後1つ。もはや壁となるセンチネルを置く余裕すらない。生半可な準備では、盤面を揃える前にザンゲツの攻撃で一気に切り崩される。それが現状であった。
「では乱れ撃ちと行こうか!
オレはスキルカード『アビス・レインアロー』を発動! これにより、こちらのアビスセンチネルとAP差2500以上の相手の攻撃センチネルを破壊する!」
「やはり罠——!」
札伐闘技は、センチネルなしにゲームを進行することが困難に等しい。ゆえに、基本的にセンチネルを直接破壊する効果を持つカードは存在しない。【深淵の願望器】が定めた数少ない秩序の一つである。そのため、原則として、センチネル同士の戦闘を介してのみセンチネルの破壊は発生する。
だが——ここまでAP0を多用するムガのデッキには、そういった条件を踏まえた上で『センチネルを破壊する』スキルカードの搭載が許された。
それは、上級センチネルを破壊する
絶体絶命のピンチ。ムガのアビスセンチネルたちのAPが0ばかりだったのはこの為の布石だったのか。カザネが火力で一気に盤面を刈り取ることを察知していたのか。いずれにせよ、ザンゲツが倒れればこのターンそれ以上の攻撃はできない。攻撃不能のシンゲツでは追撃が行えない。ムガの盤面を変動させることができなければ、次のターン何をしてくるかなど未知にも程がある。カザネとしては、とにかくムガの戦術を可能な限り吐き出させたかった。ゆえに——
「そんな罠——お見通しだってのよ!」
「何ィ——ッ!?」
カザネはあえてその罠に乗っていた。
「スキルカード『ブレイドダンス-イアイ・ゼロ』! このカードにより、このターン、ザンゲツのあらゆる斬撃攻撃は光速を超えて相手に届く! 具体的に言えば——時空属性以外のカード効果を受け付けない……ッ!」
時の狭間を駆け抜けるザンゲツ。斬撃に至るまでの軌道は、時空属性を持たないムガとアビス・ノイズには認識できず、そして時の狭間を移動しているがゆえに、実際には1秒すら経っていないまま——ザンゲツは己に放たれた矢の射程範囲から完全に離脱した。
すでに時空属性が心に刻み込まれているカザネはその全てを観測し、そして斬撃の成立を見届ける。
「——アビス・ノイズ、撃破!」
正体不明を両断し、ザンゲツの背後では爆発が発生する。
ムガはそれを「何が起きた?」と呟き口を開けて傍観する他なかった。
「これであんたを守るセンチネルはもういない。どれだけ深淵の力を使いこなしているのかなんて知ったこっちゃないけど、とにかくここまでね。
——ザンゲツの攻撃権はまだ残ってる。終わりよ、ムガ!」
ザンゲツの太刀がムガに向けられる。「次はお前だ」と、殺伐闘技を——そして芸都を荒らした元凶を一刀両断するべく、その刀が振り上げられる。
——その、刹那。
「——くは。」
ムガが、不気味に嗤ってみせた。
「よく見てみなよ、月峰カザネ。空で爆発四散したアビス・ノイズをさァ……」
「うそ——」
カザネは、次第に薄れていく爆風の中に、“それ”を見た。
アビス・ノイズのモザイクじみたノイズが晴れていく。アビス・ノイズ、その正体は——何かを格納するための『箱』だった。
「匣の中には切り札が大事にしまわれていたってわけだ。
——『アビス・ノイズ』の特殊能力を発動。
戦闘破壊される際、このセンチネルを破壊状態にすることで、デッキから召喚可能な『アビス』センチネル1体を召喚し——それに戦闘を肩代わりさせるという処理で、戦闘を続行する」
——既にザンゲツの攻撃は起きた後。そして戦闘対象の差し替え処理はザンゲツに対して行う処理ではなく、あくまでもムガのフィールドで発生した処理。この場合、ザンゲツの攻撃が止まるのは攻撃対象が完全に消滅していた場合のみ。既に始まっていた攻撃動作は、相手の場にセンチネルが存在する限り続行される。されてしまう。
——ゆえに、ついに“それ”が効果を起動した。
ザンゲツの刃が斬り裂いたセンチネル。それは、空を浮遊する——黒百合のようなセンチネルだった。
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「??????」
AP1
種別:アビスフォール・センチネル
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「お前が今破壊したセンチネルの名は——
——『
「第1形態——? でももうあんたの場にこれ以上カードを置ける場所なんて——」
そこまで言って、カザネは一つの仮定に行き着いた。アビス——このゲームにおいて、これまで現れてきたアビスカードとは、その尽くが死を打ち消す力を持っていた。
だが、ムガの使用する『アビス』カードたちに今のところそのような兆候は見られなかった。それは、アビスカードの真価を発揮する為の布石とでも言わんばかりの、言ってしまえば前座のようなカードたちであった。
となれば——
「——そう、ここからが本番ってわけね」
「ああその通り! 御名答御名答アヒャヒャヒャヒャヒャヒャア!
『
——
黒百合を模したアビスセンチネルが、空に出現している浸蝕結界由来の孔へ逆さまに落下していき、新たな姿へと変貌する。
「浮遊と飛行。その境界を越えて、深淵へのカウントダウンはフェイズシフトする——。
逆さまに落ちたその先で、深淵の輪廻が巡り来た今——その新たな姿で天より降臨せよ!
——『
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『
AP10
召喚時、手札1枚をデッキ内の『アビス』スキルカード1枚と差し替えることができる。
このセンチネルが破壊される場合、代わりに
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——現れたのは漆黒の立方体。無機的でありながら、時折その器は胎動を見せる。その裡に潜むのは何者か。カウントダウンは始まったばかり。だが既に、決戦場には得体の知れない恐怖が充満していた——。
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