四ノ三 武士たち
なすものもなく屋敷へと帰った綱を、
綱は玄関をあがるなり、
「また逃がした」唾を吐くようにいう。
季武もいつになく真摯な面持ちで、
「やつらもだんだん手口が巧妙になってきた。うちの
「拠点をひとつひとつ、しらみ潰しに潰していては、いつまでたっても埒があかん。土蜘蛛一味を捕まえられても末端のコソ泥程度では意味もない」
「それは、俺にはやく本拠地を見つけろと、遠回しにせかしているのか、綱」
「直截に言ったつもりだがな」
そこへ、廊下をふみならしながら、
「おふたり、殿がおよびです」
「なんだ、まだ寝ておられなかったのか」
と問う綱へ、貞光が答えて、
「最近なかなか眠れないようですよ」
綱と季武は顔を見合わせた。
「また、あの話だろうな」綱が溜め息をつくように言った。
「で、あろうな」季武は本当に溜め息をついた。
部屋へ行くと、
「はあ」
と大仰な溜め息をついた。
「季武、金時の行方はまだつかめんか」
「は、部下に命じ、四方八方手を尽くして捜索させておりますが、いっこうに」
「風の噂ででも、金時の消息がつかめればのう」
――やっぱり金時の話であったか。
と綱も溜め息がつきたい気分であった。
金時は、頼光が年取ってから加わった郎党であるから、親が末っ子を猫かわいがりするようにかわいがっていた。
であるから、頼光のもとを離れて朱天のもとへと金時が去っていった時には、そうとう落胆していたし、三年も経った今現在も、ことあるごとに、金時はどこだ、金時の消息が知りたい、そんなことをこぼすのであった。
「おそらくは、朱天とともにいるのでしょうが、その朱天の行方じたい、この三年間、まるでつかめておりません」季武、なだめるような言い方である。
「まずは、土蜘蛛を殲滅するのが先決でしょうな」綱が言った。「土蜘蛛のなかには、朱天の居所を知っている者もいるに違いありません。じっさい、かつて朱天と行動をともにしていた、茨木、虎丸のふたりが、土蜘蛛一党に加わっているのを確認しております」
「さようか」頼光は興味なさげにつぶやいた。
かわって季武が、
「ともかく、京に点在している土蜘蛛の拠点を見つけられるだけ見つけて、同時に、一気に攻め潰すのが、得策でしょう」
「そんなこと、あと十年かかっても無理なんじゃないですか」貞光が口を挟んできた。「なにかもっと、宙返りをうつような奇抜な手段をこうじませんと」
「なにか良い案でもある口ぶりだな」綱が嫌みを含ませて言った。
「それを考えるのは、季武さんの得意とするところでしょう。なにかありませんか、季武さん」
「ねえよ」季武が溜め息混じりに言った。「いや、実はなくもないんだが……。殿、その策には、道長公のご協力のみならず、天子様のご同意もとりつけていただかなくてはいけません」
「なんだ、面白そうではないか。話せ」まるで死んでいた人間が息を吹きかえしたように、頼光が気を取り直した。
「では、お耳を」
四人が額がくっつくほど近づいて、季武の練った策を聞くのであった。
聞き終わって頼光、
「ううむ」とうなった。「やってみるだけの価値はあろうな」
「では、道長公と天子様のご承諾を取り付けていただけますか」
「確約はできぬが、やれるだけやってみよう。いや、かならず取り付けてみせる」
「はは、なにとぞ」
と季武が頭をさげ、綱と貞光も同時に低頭した。
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