閑話“慟哭”
G県の事務所に到着した僕らは、
仲間たちに称賛された。
でも、素直に喜ぶことはできなかった。
黒川さんを見たが、笑顔がひきつってる。
僕も、うまく笑えているだろうか。
東京にいた仲間たちは、誰もいなかった。
事務の人達や非戦闘員は全員無事。
話を聞くと、
彼らは最前線でAHUの凶行を抑えていたらしい。
そのお陰で住民の被害は最小限に抑えられ、
警察とハンターの連携が組まれた。
ただ、誰よりも前線へ出て戦ったのは彼らだった。
誰も彼も、桜の旗を掲げて。
護れ、と。
逃がせ、と。
行かせない、と叫んで。
誰も彼も鉛の雨に打たれた。
それに引き換え、僕はどうだ?
何ができた?
何をした?
何だった?
「アルジ様の役に立たない、
アルジ様の邪魔をする貴様らも“あれ”と同罪です。
誰も彼も許しません。
核兵器だろうが、最大クランだろうが
私の知ったことじゃありません。
ことごとく、皆殺しにします。」
あの言葉は、ある意味一番効いている。
役に立たないどころか、
櫻葉さんを見殺しにしてしまった。
あてがわれたホテルに戻った。
黒川さんとは、一言も話さなかった。
黒川さんも思うところがあったんだろう。
部屋について、着の身着のままベッドへ倒れた。
ユミ(幼馴染み)の時と同じだ。
涙はでない。
虚脱感が体を包み、思考が同じところでループする。
「なんて、無力なんだろう。」
思わずこぼれ落ちた。
物語の主人公ではない、モブですらない。
日本最強と持ち上げられて飾られた、
中身空っぽの人形。
「力が欲しかった。」
力があれば、ユミは助かったかもしれない。
力があれば、櫻葉さんを助けられたかもしれない。
力があれば、そもそも櫻葉さんを頼らなくてよかった。
「腕力、知力、なんでもいい。
力が欲しかった。」
煌びやかな天井へ消えていく言葉は、
どこにも届かない。
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