第79話 空腹の時に食べる甘いものは、超サイコー



 *7



 いよっと!


 うむ、まだ二回目だが綺麗な着地ができたぞ。


 さながら体操選手がバク宙した後に、背筋をピーンとするアレみたいな感じ。


 中々どうして、自分で自分のことを褒めてやりたい気分である。


 と、それはそうとだ。


 燃える巨大虎は──あっ! いたいた。


 丁度、僕の方に突進してくる。


 でも待てよ。


 これって殺したらまずいよな。


 いや、別に動物愛護団体が、うんたらかんたらって意味じゃなくてさ。



 個人的に異質ではあるが、動物は動物だ。

 殺すのは、かなり抵抗感がある。


 よし、ここは気絶程度で捕獲するか。


 しかしだ、燃えているから、流石に素手だと熱いだろうし、『波動烈堅』で、防御力を高めてから、軽くパンチして気絶させよう。



 こんな格好で、真夜中とか言え、外に長居したくないし。


 「『波動烈堅』」


 おお──まだ慣れないな。

 自分の腕が銀色に輝く鉄みたいになるのは。


 しかも自分で触って解るが、相当の硬度だ。


 多分、鉄よりも固いんじゃないか? これ。


 そして、僕に突進してくる燃える巨大虎に、右手が銀色に輝く僕の右ストレートパンチをお見舞い……は、したんだけど。


 なにこれ?


 殴ったのに、感触が、まるでスライムのような──いや、弾力のあるゼリー状の何か──これは一体。


 「ビビィィィ!」


 突然、燃える巨大虎が大口を開けると、僕に特大の火球を飛ばしてきやがった。


 僕はすぐさま、後方にジャンプして躱わす。


 火球は逸れ矢のように、明後日の方角に飛んでいったが、まずいぞ。


 これでは被害が拡大してしまい。



 僕はもう一度、燃える巨大虎に渾身のパンチを放ったが、腕が、巨大虎の体の中にズブズブと、めり込むだけだった。



 解ったぞ。

 コイツの体は見た目は巨大な虎でも、マグマみたいな物質の塊なんだ。


 これじゃあ、空気を殴っているのと変わらないぞ。


 確か【リザルト・キャンセラー】の奴が、『抽象型』は肉体を自然の物質に変化させることもできる、みたいなことをベラベラ喋ってたな。


 嗚呼、あの時、もっとちゃんと特徴とか対策を訊いておけばよかった。



 これは、もしもの話だが、『波動思念』も『抽象型』に有効な一撃があるんじゃないかな……。


 そんなことを考えつつ、またしても巨大虎の大口から火球が飛んで来た。


 なんか、ちょっとした怪獣映画みたいだな。


 それよりも、避けないと──熱ッ!


 避けるのが数瞬遅れてしまい、半裸の脇腹を少し掠ってしまった。


 見たら、軽い火傷になっている。


 コイツ……今のチートになった僕にダメージを与えるなんて……。



 相当強いぞ。


 あっ! そうだ! さっき思いついた『波動穿孔』を試してみるのも手だな。


 そうと決まれば、イメージしろ。


 僕の右手の掌に『思念気』が集中するイメージを──ん?


 なんだが掌に熱い感覚が。


 ええい! モノは試しだ。


 そして僕は、『波動脚煌』で強化された脚力で、神速のスピードのもと、燃える巨大虎に近づき、巨大虎の額に掌を触れて言った。


 「『波動穿孔』」


 すると、燃える巨大虎の体を貫通して、額から尾の先まで、穴が空いている。


 が、その穴の中に、臓腑は無い。


 血の一滴も無い。


 僕がさっき考えていた通り、鈍く燃えたぎるマグマが、貫通した穴から見え、すぐに肉体は再生してしまった。


 これはまずい。



 思ってた以上に、大捕物になのは必定だ。


 『グゥゥゥゥゥ……』


 ん? なんの音だ?


 その音の主は、燃える巨大虎のものであった。


 『グゥゥゥゥゥ……』


 呻き声ではない、これはアイツの腹から聞こえる。


 つまりだ。


 コイツ腹が減ってるのか?


 見ると、なんだかグッタリしているし。



 「なぁ……お前もしかして、腹が減っているのか?」


 「……そうだビビ……」



 ッ! 喋った!


 まあ話しかけた僕も、まさか話返してくるなんて思わなかったが。


 しかし、凄くグッタリしている。


 なんか捨て猫を見ているようで、可哀想になってきた。



 でも捕獲もしなくちゃいけないし。


 でもなぁ、触ることが出来ないマグマの巨大虎を、どうやって捕まるんだ?


 ここは、一旦、冷静になって、心絵に相談して後日捕獲するしかないな。



 今の僕じゃ、流動する肉体を捕まえる技なんてないし。



 仕方ない。


 今は一時休戦して、コイツに何か餌を──でも、一体なにを食べるんだ?


 肉? 魚? 野菜──は無さそうだが。



 「なあ、お前、何が食べたいんだ?」


 「あ、甘いものなら……何でも……」


 え? 甘いもの?


 予想の斜め上の返答に、半ば驚きながら、僕は自宅に戻って甘いお菓子を探すことにした。


 コンビニに行って甘いお菓子を買えばいいが、こんな格好でコンビニ行ったら通報されるぞ。


 てか、その前に、お金を持ってきてない。


 「解った。すぐに戻ってくるから、ちょっと待ってろ」


 「わ、解った……ビビ……」



 言って、僕は猛スピードで自宅まで戻ると、何か甘いお菓子はないか、探してみた。


 おっ。クッキーがある。


 しかも、安売りの時に買った、特盛クッキーである。


 よし、これを持ってアイツのとこまで、また猛ダッシュする自分。


 やれやれ、なんで僕がこんなことを。


 でも見た目はどうであれ、動物は大事にしないと。


 「おおーい。甘いお菓子持って来たぞ!」


 「び……ビビ! 本当かビビ!?」


 「嘘つくわけないだろ」


 僕は手に持っている、特盛クッキーの袋を見せると、燃える巨大虎は嬉々として喜んでいる。


 なんだか意外と可愛いやつだな。


 しかしなあ、どうやってクッキー食べさせればいいんだ?


 僕はとりあえず、クッキーの袋を開けて、中身のクッキーを一枚投げてみた。


 すると、器用にクッキーに飛びつき食べた。



 その姿を見て、僕はどこぞのカビおじさんのように、よーしよしよし、と、撫でてやりたかったが、触ると熱そうなのでやめた。


 そして、クッキーを全て投げ終わり、満足したのか、ホクホク顔になっている。


 なんだか、少し愛着が湧いてきた。



 まあ飼いたいとは、思わないけれど。


 しかも人の言葉を喋るんだぜ?



 そして、僕の前で、燃える巨大虎は、僕に対して敵意が消えたのか、いきなり大ジャンプをして、虚空に消えてしまった。


 天高くジャンプしたところまでは、燦然と燃える物体が見えていたが、急に暗くなり、真夜中を照らす大炎は一瞬で消えた。


 見ると、そこかしこで燃えていた火災も消えている。



 一体、あの燃える巨大虎の正体はなんなのだろう。


 まあ今考えた所で、判らないよな。


 明日、心絵に、今起こったことを説明して対策を練らなくては。


 そして僕は、判じかねる中、自宅に帰ったのだった。

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