第77話 最強チートになったら、やっぱり必殺技も欲しくなる
*5
「鏡佑氏! 鏡佑氏! なぜ帰ろうとするのだ! 待つんだ鏡佑氏ぃぃぃ! ここは桃源郷だぞぉぉぉ!」
全く、鰐ヶ淵のヤツ、何が桃源郷だ。
やっぱり嫌な予感しかしなかったぞ。
そして、早々に寂れたビルから出ると、家まで後10分だったのが、街羽市駅近くまで来てしまったので、家まで20分ぐらいまでの距離になってしまった。
時間は──お昼過ぎの午後2時か……。
一番暑い時間じゃねーか!
しょうがない、臥龍に無断欠勤したことを謝るついでに、アイツの店で涼むとするか。
僕が臥龍の店に着くと、何と『臨時休業』の張り紙がドアに貼られていた。
しかも臥龍の携帯に何回も電話しても、すぐに留守電になってしまう。
うう……涼もうと思ったのに。
しかし、鰐ヶ淵の『波動脚煌』は凄かったな。
心絵の場合も凄い脚力だったが──鰐ヶ淵の脚力は心絵の数倍上だぞ。
あっ! そうだ!
ぼ、僕としたことが、こんな大事なことに気が付かなかったなんて……。
心絵や鰐ヶ淵は陰陽師だから、『波動思念』や『呪詛思念』が使えるが僕は使えない。
でも、チートになったんだから、もしだ、もし──使えたら──チートに強い技が追加されて、もっとチートになるじゃん。
つまり足し算である。
今、平常時の僕は、あのローザよりも強いシュセロの数倍強いわけだ。
本人であるシュセロが言っていたのだから、間違いない。
そして、臨戦体制に入ったら、もっと強くなるわけだ。
しかーし!
ここで重要なことがある。
僕には──力はチートでもゲームみたいな必殺技がない……。
まあ、強いから単純なパンチだけでも充分、必殺技になるわけだが。
それでもだ!
必殺技は男の子のロマンなのである。
ということで、灰玄が訊いてもいないのに、六国山で『波動思念』についてベラベラ言っていた『四大思念』なるものから覚えよう。
……どうやって覚えるんだ?
とにかく灰玄に携帯で──出ない。
あ、アイツ、こういう大事な時に出ないなんて。
鰐ヶ淵には訊いても意味ないし。
だって自分の名前の説明も碌にできないヤツに、訊いたって意味ないだろ。
そうなると、消去法で心絵か……技を教えてもらうんだったら、灰玄が一番よかったが、致し方ない。
多分、いや、凄く偉そうに教えてくると思うが心絵に──
「アナタ、臥龍のおじさまの店の前で、何やってるの?」
その声は聞き覚えのある、冷静だが感情のない淡々とした口調の人物──そう心絵である。
しかし丁度良かった、これはグッドタイミングというべきか?
「ちょっと、臥龍に用事があって来たんだけど、アイツ──じゃない。臥龍がいなかったから家に──あっ、ちょっと待って」
あれ? 違う違う。
違くはないけれど、今は臥龍の説明よりも必殺技だ。
「丁度、今、心絵に訊きたいことがあったんだよ」
「私に訊きたいこと?」
「そう! ズバリだ! 僕に『四大思念』を教えてくれ!」
「嫌よ。それにアナタ、『波動思念』なんて無くても充分強いでしょ」
あっさり断られましたとさ。
チャンチャン──いやいや違うっての!
「充分強いのは分かるけど、なんか『波動思念』って必殺技みたいで──じゃなくて、僕にも体得できるのかな〜みたいな」
おっといけない。
こいつの前で、うっかり必殺技なんて言ってしまった。
そんなことを言ったら、僕は中二病扱い──
「必殺技って……アナタ本当に中二病ね」
……言われてしまいましたとさ。
チャンチャン──だから違うっての!
僕はどうしても、今のチート状態に『波動思念』を足したいから、両方の手を合わせて、自分の顔の前で拝み手のポーズをした。
頭も下げたので、もはや拝手である。
「うーん。そこまでして覚えたいものかしらねぇ。でもいいわよ。そこまで覚えたいなら、教えてあげる」
「うお! マジ! ありがとう!」
「その代わり、ちゃんとお礼はもらうわよ。そうね──牛丼30人前ぐらいで、手を打ってあげる」
「さ、30人前って……わ、わかったよ、でも今は持ち合わせがないから、また今度な」
「はいはい。解ったわよ。でも、『四大思念』を体得する前に、応用の『
「ふーん。ちなみに、なんて言葉なんだ? そのショーハって?」
「消えるって漢字に覇気の覇よ」
言って、心絵は『波動消覇』のやり方を僕に教えてくれた。
曰く、自分の中に『思念気』を吸収するイメージなのだそうだ。
何とも単純である。
よし。それじゃあ、自分の中に『思念気』を吸収するイメージで──
「『波動消覇』」
お? なんか体の中に力がどんどん集まってくる感じだ。
「う、嘘でしょ? なんでいきなり体得できるのよ……」
心絵が、二の句が継げない表情で僕を見ている。
どうしたんだろう?
「アナタねえ。『波動消覇』は熟練の陰陽師しか体得できないのに、何ですぐに体得できるのよ。私だって体得するのに半年も修行したのに」
「は、半年!? いや待て、そう、これは多分僕がチートだから──」
あっ! まずい!
また心絵の前でチートなんて言う、中二病の台詞を言ってしまった。
「確かに、アナタはチートとしか言えないわね──」
おや? いつもの心絵とは発言が──
「でも、自分で自分のことをチートだなんて、アナタはやっぱり中二病ね。そして馬鹿ね──いや、馬鹿ね」
……やっぱり、いつもの心絵だった。
「なぁ。ところで、何で『思念気』なんて隠す必要があるんだ?」
「アナタと会話する時に、その大量の『思念気』が目障りだからよ」
「お前! そんなことの為だけに、教えたのか!?」
「他にも意味はあるけれど、とりあえず今は、そういうことよ」
何だよ目障りって。
その前に、体の中に『思念気』を吸収したのはいいけれど、どうやって元に戻すんだよこれ。
「なあ心絵。『思念気』を戻す方法ってあるのか?」
「当たり前よ。『波動壮丈』で元に戻すの。アナタの場合は平常時でも異常な量の『思念気』だから、軽い気持ちでイメージしなさい」
言って、お次は『波動壮丈』のやり方を教えてくれた。
曰く、自分の中の思念気を外に解放するイメージなのだそうだ。
うーむ、何ともシンプル。
よし、それじゃあ、解放、解放っと
「『波動壮丈』」
瞬間、暴風を纏うように、僕の体中から『思念気』が溢れ出た。
「ちょ、ちょっと。アナタやりすぎよ。少しは加減しなさい」
「いや、これでもかなり加減してるんだけど……」
心絵に言われるがまま、僕は深呼吸をして、平常時のように、脱力してリラックスモードに入った。
そして、いつもの──というか異常な量の『思念気』の状態に戻った。
「いったい何を考えているのよ。あれだけアナタは平常時でも『思念気』が臨戦体制時みたいに、溢れ出ているのに」
「そんなこと言ったって、初めてだったんだから、上手く加減できなかったんだよ。それよりもさ、前に心絵から教えてもらった『波動脚煌』だけど、今なら出来るかな?」
「まあ、出来るでしょうね。試しにやってみる?」
僕はブンブンと頭を上下に振ってから、両脚に力を込めるイメージで『波動脚煌』と言った。
お、おわ? 何だ? 脚が燃えてるみたいに熱い。
よし、それじゃあ鰐ヶ淵みたいにジャンプしてみるか──軽くね。
そして僕は、垂直にジャンプすると──300メートルぐらい跳んだ。
す、凄い。
街羽市の風景って上空から見ると全然違うな。
僕が驚いてると、下の方で、一番驚いてるのは心絵だった。
僕がそのまま着地すると、また二の句が継げない表情で言われた。
「アナタ……本当にどうしたの? 私が最初に『波動脚煌』で垂直跳びした時は、42.195メートルだったのに……」
「お前はどこのフルマラソン選手だよ……」
まあ、少し冗談が言えるってことは、完全に僕のことを人外扱いしている訳ではないという事か。
そんなことよりも、必殺技だよ!
攻撃は最大の防御とか偉い人が言ってたじゃん。
誰だかは知らないけど。
「なぁ心絵。『四大思念』の中で、攻撃ができるヤツあったじゃん。あれ教えてよ」
「ああ。『波動爪牙』ね。じゃあついでに、『波動烈堅』も教えてあげるわよ」
言って、心絵は両方の『波動思念』を教えてくれた。
まずは『波動爪牙』からだな。
自分の両手足を、鋭い刃にするイメージでっと。
「『波動爪牙』」
僕はそのまま、右手を手刀の形にして、地面のコンクリートに突き刺した。
すると、コンクリートが、まるで豆腐のように柔らかく感じ、手刀した部分が綺麗に刃物で突き刺したようになっていた。
す、凄い。
お次は、防御系の『波動烈堅』である。
えっと、体が鋼のようになるイメージでっと──てか、まずは部分的にやってみよう。
「『波動烈堅』」
そして、右手にイメージを集中させると、なんと右手が銀色に輝いた。
僕は自分の銀色に輝く右手を、自分の左手で全力で殴ってみたが、全く痛くない。
と言うか、逆に左手の方が少しだけビリビリして、痛い。
あっ! これって──もしかして攻撃に応用できるんじゃねーか?
僕は、銀色に輝く右手で、軽く地面のコンクリートを殴ってみた。
すると、麻酔をしていると勘違いするようなほど、全く殴った感覚はないが、地面のコンクリートは明らかに、深く僕の拳の形を残し、その場所を基点にして蜘蛛の巣のような罅隙の線が、あちらこちらに走っている。
凄いぞ。
うおおお! とうとう僕にも必殺技が使えるようになったのだ!
フハハハハハ! 我が軍は圧倒的ではないか!
「一人で盛り上がってる所、悪いんだけど、これは本当に初歩の技で『波動思念』は『呪詛思念』と違って、柔軟性があるのよ。つまり、『呪詛思念』と違って、『波動思念』の場合は、自分だけのオリジナルの『波動思念』もあるのよ。まあアナタみたいな頭が氷みたいにガチガチに固い人には、無理でしょうけれど。それじゃあ、私はまた公園巡りをするから、アナタもサボらないこと。いいわね?」
言って、心絵はどこかに行ってしまった。
でもその前に……イヤッホー!
とうとう僕にもゲームのキャラみたいな必殺技が手に入ったぞ!
しかも、心絵がさっき言ってた、自分だけのオリジナルの『波動思念』!
なんて心が踊る響きなんだ!
中二病心に火が点いてきたぞ!
と言うかもう点いてるぞ!
よし!
早速、家に帰ってオリジナル『波動思念』を考えて、もっとチートになってやる!
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