冬籠り

 フライパンの縁で卵を割る。両手で広げた殻の間から黄身と白身が滑り落ち、じゅうっと音を立てて着地する。背後で風の電話が優しい音で鳴った。

──もしもし。春ですよ。起きる時間ですよ。

すぐに留守電が応答して、

──こちら熊です。ただいま冬眠中です……

 風の言うことなんて嘘ばっかりだ。僕は立派な熊なんだから、寒いうちから外に出る訳にはいかないね。機械的に流れる応答メッセージを聞きながら、頂きますと手を合わせる。

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