第5話
アメジストセージ領の者達が新天地に移ってから六年後
精霊王の加護を失ったロイヤルミント王国のある地域───オレガノ、コンフリー、サントリナ、ウィンターグリーン、レモンバーム、そして王都にだけ異変が起こった。
まずは種を蒔いた田畑に水を与えても、肥料を与えても小麦・野菜・果物といった作物が実らなくなった。
それと同じ時期に井戸水が涸れ始める。
という事は、井戸で水を汲めない。
家事全般に井戸水を使っている家庭は近くの川へと水を汲みに行く事になるのだが、普段であれば川に水が流れているはずなのに干上がってしまっているのだ。
「み、水・・・」
「水が、飲みたい」
「パ、パンを・・・」
「せめて、子供に、何か食べ物を・・・」
民が苦しんでいる様を見ていられなくなった、それぞれの地域を治める領主夫妻は隣接している領地から穀物と食料を仕入れたり、飢饉に備えて倉庫に備蓄している食糧とワインを領民に与えるのだが、先にも述べた通り田畑を耕しても主食であるパンの原料の小麦だけではなく野菜と果物が実らなくなっている。
小麦・野菜・果物が税として納められないのだから、備蓄食糧が尽きてしまうのも時間の問題だった。
倉庫の食糧が尽きてしまった事で領主一族だけではなく民達は木の根や草を食べて飢えを凌ぐようになったのだが、それで腹が満たされるはずがない。
このような異変など、精霊王と聖女に護られているロイヤルミント王国では一度として起こらなかったのだ。
飢えと渇きに苦しんでいる領民達は、こんな事を言い出し始めるようになる。
領主様の息子であるシャルル様とカール様、婚約者のエトラ様とベローナ様、そして王太子であるヴィルヘルム様と情婦であるルミナ様が聖女様を怒らせたから、精霊王様はロイヤルミント王国を見捨てたのだと──・・・。
考えてみればシャルルとカールはヴィルヘルムのように女であれば見境なく手を出して弄ぶクズでゲス野郎だし、エトラとベローナとルミナは積極的に乱交パーティーに参加するレベルで淫売なのだ。
精霊王と聖女だって、そのような人間がいる国に加護を与えたくないだろうし、何より魔物から護りたくないだろう。
二人から見捨てられたのだと気が付いた領主一族と領民達は我先にと故郷を捨てて他国へと亡命する事となる。
民がいなくなった事で田畑を耕す者が居なくなった土地は更地となり、護っていた結界が解けた事でロイヤルミント王国の各地に魔物が蔓延るようになってしまった。
「お、終わった・・・」
領主に国の重鎮である将軍と大臣、騎士に商人、自分を見捨てた王妃、そして今回の元凶とでも言うべきヴィルヘルムと情婦が他国へ亡命しただけではなく、天災級の魔物とでもいうべき白竜と黒竜によって王都を蹂躙されてゆく様を目の当たりにした国王は焦点の合っていない瞳で狂ったように高らかな声を上げて笑う──・・・。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロイヤルミント王国を出て間もない頃
「ヴィクトール、遅れてゴメンね」
待ち合わせ場所であるカフェにやって来たノルンは、座り心地の良さそうな椅子に座って紅茶を飲んでいる青年に手を合わせて謝る。
「いや、時間ぴったりだ」
女性が身支度に時間がかかる事を知っている青年は、気にしていないと笑みを浮かべて答える。
「と、ところでノルン?今日の精霊王様は女性(というかオネエ)ではなく、目つきが鋭くてガタイの良い男性なのだな・・・」
「精霊王様は、その時の気分で姿を変えるの」
ある時は童話に出てくる魔女のお婆さん、ある時は悪戯好きの少年という感じでね
「そ、そうなのか・・・?」
「ええ」
(何と言えばいいのか・・・背後に立ったら問答無用で殴りそうだと思ってしまうのは俺だけなのだろうか?)
プロの殺し屋を思わせる風貌をしている精霊王に、思わず青年は顔を引き攣らせる。
聖女であったノルンはというと、亡命したクローバーレッド王国の王都で活躍する錬金術師のヴィクトールという青年と恋仲になった。
そして、彼女は彼と人生を共に歩む事となる。
※ここでは語られていませんがヴィクトールの実家はノルンと同じ辺境伯。
但し、四男だから跡取りになれないので子供の頃から錬金術師として生きる事を計画していました。当然と言えばいいのか、庶民感覚を持つ青年だったりします。
※ノルンがヴィクトールの店にアイテムを買いに行ったのが切っ掛けで二人は付き合うようになったのですが、ジャンルが恋愛でない事と、現在に至るまでの話を書いていったら長くなるのでカットしています。
※ヴィクトールが言っていた精霊王の姿ですが、某超A級スナイパーであるあの人をイメージしてください。
精霊王に見捨てられた国の末路 白雪の雫 @fkdrm909
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