EX-turn:ラストワンショーの裏側

EX1:レオの謀略

 ジュノが50階へ到達した同時に、100階へ1番最初にたどり着いたのは、ボアであった。第二部で進行役を務めたティ・フォンが映像として登場し、彼らに祝福の拍手を送る。


『まずはおめでとう。君たちが一番早く100階までのダンジョンをクリアした!』


つまらない。当たり障りのない言葉だな。そう感じつつも、ボアはティ・フォンの簡潔な祝辞への不満を笑顔で隠しながら答えた。


「それはいいけどさぁ、なにかご褒美がないと一番になった意味ないよね? そういうお楽しみは、もちろんあるよね?」


ティフォンは困ったような表情をして、無言の時間を作り一通り考えた後指を鳴らしてボアの肩に腕を回し、語り始めた。


『......そうだ、君たちへの援助を100倍にしよう! 私には伝手が沢山あるんだ。今、退場してしまってあぶれてしまったパトロンたちを君たちへの応援に参加させると約束しよう!』


「それは、分かりにくい褒美ですね。パトロンが多くても何か我々に還元されるものもないのに......」


そうつぶやいたのは、ティ・フォン主催の第一部にて1位通過したリンドウと呼ばれるエルフだった。それでも、ティ・フォンは顔色一つ変えずリンドウの元へ向かい彼女の顎に指を添えて自分の方へ視線を合わせた。


「パトロンの多さは君たちの戦いを有利にする。その恩恵はすぐに理解できるはずだ」


ティ・フォンが手を叩くと、ボアたちの勇者の証から音が鳴りだした。彼らが取り出すと、彼らに対してポイントが振られていく。ボアに1万、リンドウは1万5千ポイント、そしていままで無言を貫いているノードには9000ポイントが支給された。


「このポイントは?」


静かに質問したのは、大男のノードであった。すると、ノードのポイントが上がり、ボアとポイント数が同じになった。びっくりしていると、ティ・フォンが画面を切り替えて他の勇者パーティーたちが順位表となった表を見せて来た。その表では、1位がボアのチームとなっていてボアは理解しなくとも一位という言葉に嬉しさを見出していた。しばらくして、ティ・フォンがその表について語りだした。


『これは、君たちへの期待値だ。そして、その期待値によって勇者にふさわしい人か判断できているということだ。つまり、いままで理解できていなかった勇者とはなんぞや、勇者の在り方というのを可視化したものだ!』


「じゃあ、リンちゃん僕らより個人のポイントが多いのも、僕らより勇者にふさわしいってこと?」


ティ・フォンが黙っていると、済ました顔でリンドウが語る。


「そうね、私って秘蔵っ子だから」


「秘蔵っ子ねえ......」


『お分かりいただけたようだね! では、ダンジョン攻略を続けてくれ! 次の審査は300階だ!』


そう言うと、ティフォンの映像が消えてダンジョンに静けさが戻った。対面できなかったことに不満を抱えながらもボアは先に出ようとした。が、リンドウがそれを引き留めた。


「あ、ごめん。ちょっとパトロンから呼び出しだわ。ちょっと待ってもらえる?」


「? 別にいいけど」


ありがとうの意味を込めた投げキッスをし、リンドウはボアたちから離れた場所で連絡を取り始めた。


「もしもし?」


『やあ、リンドウ。調子はどう?』


「はい、レオ様。無事、一位通過しました」


通話の相手はレオであった。レオはティ・フォン、アリスト・アルバートそれぞれの第一部のショーに自分のお気に入りを潜ませていた。リンドウもその一人であった。


『それは俺も見ていたよ。おめでとう。これで私たちの理想に一歩近づいた』


「それで、約束は果たしました。私の記憶を......」


『そう焦らなくていい。君の記憶は順位に関わらず、必ず取り戻してあげると約束しよう。君を必ず家族の元へ返す』


レオは一方的に通話を切った。リンドウの不安な表情をよそに、議事堂でゆったりと画面を眺めるレオは顔を深く沈めた。


「なぜ、あのジュノとかいう少年が第二部に上がっているんだ! ティ・フォンの奴め......。それにあいつのパトロン、リオンだ! 王国の亡霊がなぜ生きている!」


荒れるレオに、秘書であるアニはそっと彼の手に自分の手を重ねる。


「あなたの計画は順調です。亡霊に怯えてはいけません。すべてはあなたのために動いているのですから」


アニの冷静な声色に、レオは段々と怒りを鎮めてアニの肩に頭をうずめた。アニはそれを受け入れ、レオの頭を子供の用に優しくなでる。


「そうだよな。お前は俺の右腕にして、前回王者なんだ。君の言葉に導かれて今があるんだ、これからも期待している」


「はい。それでは、他の党首の方へ挨拶してまいります」


「ああ、頼んだぞ」


アニはレオから離れ、一例した後に彼から離れた。レオはアニを見送った後、もう一度勇者たちを映す画面を見つめた。勇者パーティーの数だけある画面を見つめ、そのうちの一つを目を凝らした。それには、ジュノのパーティーにちょっかいを賭けて来たオカザキのいたパーティーの生き残り、リリィがいた。彼女の生存に安堵したレオは、彼女と連絡を取ることにした。


「リリィ、まだそんなフロアにいるのか?」


「ちょ、レオ様!? 急にどうした?」


「どうしたもこうしたもない! 死神リーパーを放つ。合流しつつ、上位を目指せ! 手段は問わない!!」


「はーい♡」


リリィは甘い声でレオの想いに応えようとした。レオはブツリと通話を切り、彼の言うリーパーを呼び出した。リーパーは黒いローブを着て、顔も見えずただ人形のように整列した。


「死神部隊たちよ。第一部ではあの違反者ジュノを逃したが、二度の失敗は許されない。覚悟するように......。失敗した者は、確実に存在を消去する! これは、お前達の生存をかけた戦いだ! 憎き勇者どもを殺しに行け!!」


威勢のいい言葉と共に、リーパーがジュノ達勇者が挑むダンジョンに放たれていく。レオはその光景に笑みを浮かべて、画面のある自分の部屋を出た。議事堂の廊下を歩き、ティ・フォンのいる個室へと向かった。


「おや、レオくん。どうされたのですか?」


「死神を放った」


「おお、それは面白いことをしますね。それでは、勇者たちに通達しますね」


「ああ、頼むぞ」


ティ・フォンの個室から離れながら、レオは彼を鼻で笑う。


「魔人にも、アリストにも権利などやるものか......。どんな手を使ってでもめちゃくちゃにしてやる!」


眉をひそめて廊下を歩いていると、静かに散歩していたアリストが彼を見つける。アリストの目には、レオは野心丸見えの道化だった。アリストは静かに彼の通り過ぎるさまを見て、軽く諫める。


「現国家元首に、挨拶もなしですか? レオ」


「気やすく呼ぶな。 いずれ、お前の座は俺のものになる」


「あなたはNo.2がお似合いですよ。そもそも、あなたが権力を持てているのは私のお陰だとお忘れですか?」


アリストの影の入った顔は、レオにとっては権力の象徴であった。それでも、レオは毅然とした態度でアリストの元から立ち去った。自分の進むべき道を進むように、そして自分の願いを勝ち取るために改めて決意しながら自室へと戻るのだった。






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