28:50階到達
「それで、あなたは......クエムでしたっけ? あなたも貴族?」
エレベーターの中、ただ静かに目的地へ向かうのもなんなので、俺はクエムさんになんとなく話を聞くことにした。クエムは俺が自身に興味を持つことに驚いて少し間を開けてから口を開き始めた。
「はい。スターロック家、アルバート家と並ぶ三大領貴族です。今も昔も我々は抗争の絶えないものでした......」
「ああ......。あの、一番王族と親睦が深かった......。では、どうしてリオン嬢のことを知らなかったのです?」
王族との派閥なんて知らないけど、ティルの言ってることが正しいなら確かに知らないのも変だなと首をかしげているとクエムはただ平謝りするばかりだ。
「面目次第もございません」
続く質問を考えているうちに、またも体がグンと浮かぶような感触がしてエレベーターが止まった。
「それでは、私達はこれで」
「ジュノ、個人的なことに巻き込んですまないが応援する気持ちは本物だ。ぜひ、君にはラストワンになってほしい」
「いや、むしろ巻き込んでもらって嬉しいよ。俺は君という守るべき姫ができたんだ。君のことは絶対に一緒に頂上に連れて行く!」
「なんだか、羨ましいですわ。私にも白馬の王子がいれば百万力ですのに」
「勇者と姫、そして魔王......。なんだか、できすぎたお話だね」
俺はカインの言葉に苦笑いを浮かべつつ、リオン達と別れた。ようやく50階にたどり着いた俺達は、さっそく50階を見回して次のフロアへ向かう道を探し始めた。
「ちょっと、待って」
「どうしましたの? カイン」
「どうしたのじゃないよ。リーダー交代の話、もしかして忘れてない?」
「あら、そうでして? ですが、ここは勇者様であるジュノに聞いてみては?」
「ふざけないでよ。みんなで決めたことでしょ?」
「また喧嘩? いっそのこと、対決で決めたら?」
二人の小競り合いに嫌気がさした俺の一言が、二人に火をつけてしまった。
「君にしてはいいこと言うねえ」
「ほう、万年補欠勇者が私達に挑みますの? 片腹痛いですわ」
「え、やるのカ?」
「あったりまえでしょ! 行きますわよ、ゼノ!」
二人の戦闘に巻き込まれまいと、俺は彼らと離れるとゼノバスターが先に仕掛け始めた。カインは変身途中ながらも、ゼノバスターの鋼鉄の腕を受け止める。
「オマエ、やるな」
「これでも、獣人なんでね......。 さて、反撃と行こうか!」
完全に狼へと変身したカインは、その爪でゼノバスターに傷をつけようと引っ掻き回すが、ゼノバスターの身体は傷ひとつつきやしない。なんて硬さだ。普段のダルそうな態度とは打って変わって、真剣そうに光る目つきでカインに蹴りを入れていく。
「おお! 二人とも頑張れー!」
「ミサイル全弾発射ー!」
「オリャー!」
「効かねえ! オレの美しい爪に引き裂かれな!」
カインがティルの方へ向かうも、ティルもまた持っていた短い棒を伸ばして応戦し始めた。
「司令塔である私へ向かうのは想定内! 私とて、訓練を積んだ勇者見習いでしてよ!」
二人とも、楽しそうに戦いあっている。お互いの戦力を知るように、互いの真意を知るために一挙手一投足を解釈しようとしている。なんだが、俺の身体もうずうずと震えだした。
「なんだか、面白そう! 俺も混ぜ......」
「「それは無理!」」
前へ出ようとする俺をカインとティルの二人が同時に突き飛ばし、そのまま二人はお互いを掴みあい、膠着し始める。
「さすがに、疲れて来た......」
「変身、解けてきてますわよ? カイン。さあ、リーダーの座をお渡し!」
「ふざけないでよ。一番に輝くのは、このオレだ!!!」
カインがティルを背負い、フッ飛ばすとゼノバスターが彼女を追いかけて救助へ向かう。その隙に、カインはさらに加速してゼノバスターの顔面をぶっ壊す勢いで殴りかかった。
「ネガッ......!?」
ゼノの頭部は完全に胴体と分離し、そのまま流れ星のように放物線を描いて地面に落下した。
「これで、僕の勝ちかな?」
前方にいたティルを押さえつけ、カインは変身を解いた。誰が見ても、勝ちは明白だった。でも、ティルは少し不服だった。
「やっぱり、不満ですわ。ここまで強いのに、どうして戦いませんの?」
「それはね、美しい僕に血は似合わないからさ。それに、僕は暴力じゃなくてパフォーマンスでみんなに力を与える勇者になりたいのさ。それはいけないことかい?」
「いえ......。私の、負けですわ。望み通り、リーダーを譲って差し上げますわ」
「ありがとう。ジュノも、見届けてくれてありがとうね。これからも、応援よろしく」
「いや、別に応援してたわけじゃないけど......。それで、リーダー。これからどうするの?」
「それは、みんなに引けを取らず、派手に頂上を目指す! それだけさ」
そう言うと、カインは鼻歌を歌い、ふらり、ふわりと踊るようにダンジョンのフロアを行き、階段を登っていく。その景色はさながら劇のようだ。姉さんがよく俺に見せてくれた下手くそな劇じゃない。人に魅せる劇だ。さながら主人公のようにふるまう姿に俺は感動さえ覚えた。
「派手にか。悪くないね! 俺もついていくぜ! リーダー!」
「仕方がありませんわね。狂うことが趣味なら今は狂いましょう?」
俺達は気持ちを新たに100階を目指し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます