26:崩れ行く関係(パーティー)

 次のフロアへ向かうと、フィドルは俺たちに銃を向けた。ここに魔族も魔人もいない。静かなダンジョンだ。彼が銃を抜くのは一つ。俺達の排除だろう。


「ジュノ、ここでお別れだ。永遠にな」


「ここで殺し合うのか?」


「遅かれ早かれ俺達は殺し合う。俺が今だと決めただけだ」


だが、フィドルの挑発に乗る気はない。にも拘わらずティルがしゃしゃり出て来た。彼女はゼノバスターの腕をフィドルに向けた。


「そうですわね。ですが、死ぬのはどちらでしょうかね」


「イレギュラーは排除する」


キラーが自分の長細い剣を取り出して、ティルの首元にその刀を押さえる。その冷たい刃を俺は掴む。


「勇者を殺すことが本当に君の夢なのか?」


「それが私のパトロンの願いでもある」


「それは君自身の願いじゃないだろ!」


膠着状態となった俺達は、互いに互いを睨みあいながらフロア内を歩いていく。ここで戦うしかないのか......。


「俺と戦え、ジュノ。 これはお前との決着でもあるんだ。お前といるといつも俺の意志が揺らぐ。俺は俺の運に従って行動する」


「俺はお前とは戦いたくない! 一緒に妹さんを救いたいと本気で思ってる!」


「だからお前はレオに勇者と認められずにいるんだよ!」


フィドルとのにらみ合いを続けていると、しびれを切らしたノスケが割って入るかのように自分の刀を抜いて切りかかってきた。


「切り捨て御免!」


その刀は危うく俺をフィドルと同時に切るくらいの勢いだったが、地面に突き刺さっただけだった。


「おい、俺まで巻き込んでどうすんだ!」


「皆々様には悪いでござんすが、拙者も拙者の主のためここで全員を斬る」


「主、主ってそんなにパトロンが偉いのかよ!」


「パトロンは絶対だ! お前達の排除は私に送られた啓示なのだ!」


手を離した隙に、キラーがこちらに切りかかってきた。瞬間、ゼノバスターが割り込み、鋼鉄の腕でその剣を防御した。


「こいつ、人形みたいで苦手だな......。おい、ジュノ。こっちはジブンたちに任せろ」


「ゼノ! それは私が決めることですわ! ジュノ、ゼノの言う通りにして、あなたはそのサムライもどきをぶっ倒してくださいまし!」


「わかった!」


俺はノスケを向くと、ノスケもこちらの殺気に気付き刀を向けた。フィドルもまた銃口をこちらに向けて引き金を引きだした。


「おい、今は違うだろ!」


放たれた弾丸をはじき、俺はフィドルが追い付けないように走り出した。フィドルもそれに合わせて弾丸を再装填しながら走り出す。


「いいや、こうなったらもう誰でも構わない! 俺の道を阻む奴は全員、俺の敵だ!  全員、俺の弾丸の餌食にしてやるぜ!!」


フィドルは追従してくるノスケへ銃口を向けて二発弾丸を放つも、その弾道を読み、ノスケは刀で弾丸を切り捨てた。だが、その一発はノスケを通り抜けて俺へ向かって来た。


「破魔震伝流 ‐震避‐!!」


振り向きざまに、俺はノスケとフィドルを視界に捕えて拳を地面に落とす。


「破魔震伝流 ‐威振伝震‐!」


「その技は食らわねえよ!」


地面の揺れが伝わり、彼らのいた地面が割れる直前、二人は飛び上がりフィドルは俺の方へ銃を撃ち、ノスケは刀を振り回しその斬撃を打ち放った。


「何度やっても同じだ!」


曲がる銃弾を被弾する前に何度も拳で破壊し、刀の斬撃も同様に振動ではじき返していった。余裕の笑みを浮かべたつもりが、斬撃波が俺の右眼前に広がった。


「しまっ......!」


突然、右目が血で覆われた。最悪だ、瞼が切れたか!? だが、そんなことは関係ない! 俺は身体が壊れようが、立ち上がれるまで勇者になるのを諦めない! のけぞっていた自分の体を、俺自身の意思で留めて再度前を向いた。


「うおおおおお!」


「死ね! ジュノ!」


3発の弾丸はすべて右側に寄っていった。弱点を突いてくるのは彼らしいと思うが、一辺倒の考えで分かりやすい。ならば、全ての力を左側に集める!


「破魔震伝流 ‐螺刹‐!!」


「ぐ、が、はっ!!!」


フィドルの弾丸は俺の右腕にめり込む途中で勢いを落として地面にカランカランと落ちていった。


「フィドル!!」


失神するフィドルに手を伸ばそうとするも、その手はキラーによって制止された。

キラーを止めていたティルとカインは地面に倒れているだけで死んではいないらしい。


「違反者には死を!」


「おまえ、なんなんだよ!」


PKプレイヤーキラーだ。私にパーティーなど必要ない!」


キラーの剣を割ろうとするも、瞬間的にじぐざぐに動きこちらの胴へ入れ込む。だが、俺は震避で剣を透過させて回避した。


「古武術の勇者を倒すのは拙者でござる!」


ノスケ、まだ生きていたのか!!

ノスケの刀がキラーに噛みつこうとした瞬間キラーはフィドルから奪っていたであろう拳銃で振り向きもせずにノスケの眉間に風穴を開けた。


「お前......」


「排除してやる!」


「ジ、ジュノ......!」


フィドルが目を覚まし、自分の拳銃がないことに気付きながらもシャツの中に隠し持っていたもう1丁の拳銃を取り出してキラーへ放つもキラーはほぼ同じタイミングで弾丸を放ち、フィドルの放った弾丸を撃ち落としそのままフィドルの心臓に鉛を打ち込んだ。


「フィドル!!!」


ノスケとフィドルが消滅するも、まだキラーは俺を追いかける。俺もその違反者の1人ってことか。前にも違反者として追われていたな。もしかして、あの集団となにか関係あるのか? こいつ......。


「ジュノーーー!!!」


咆哮と共に、カインが銀色の毛並みの狼に変身してキラーへ突撃した。

キラーはその突撃の衝撃で剣を落としてしまう。今がチャンスだ!


「何を構えてらっしゃるの! 逃げますわよ!!」


ティルを抱えながらゼノバスターが俺たちを拾い、階段を駆け上がっていく。キラーは暴れながら階段を登っていくがゼノバスターのゼノバーストによって崩れていく階段を前にしてさすがに駆け上がれずに落ちていった。


「ネガい......。お前タチ早く、降りロ」


ティルを地面に降ろし、俺たちを振り下ろしたゼノバスターが蒸気を発して座り込んだ。相当エネルギーを使っていたみたいだな。それにしても、フィドルがやられてしまうなんて......。カインがブルブルと首を振って自分の変身を解いていくと、ゼノバスターのようなため息をついた。


「ほんと、君って人は......。人が良すぎるよ」


「そういうのも魅力の一つと思う人もいるのではなくて? 私は嫌いじゃなくてよ。でも、早死にしそうでヒヤヒヤしますわ」


「本当だよ。僕たちの寿命も縮みそうだよ」


二人の顔は怒りというより、呆れに近い。前へ前へと先走る俺についてくれるだけでもうれしいのに、俺はこの人たちになにもしてあげてない。


「ごめん......」


「うん。これからまだ先は長いんだから頼むよ。君が一番この中で強いんだから」


「それは、私たちが頼りないと言いたいのです?」


「だって、ネガティブロボットくんと能無しお嬢様のバディなんて当てになる?」


「それを言えば、獣人を隠していたあなたなんて戦力外でしょう!?」



また始まった......。

この二人の小競り合いだ。でも、少し二人の表情が明るい気がする。俺は二人の会話に少し微笑みながら制止することにした。


「まあまあ、ここは一番強い俺の顔に免じてさ」


その言葉に二人は固まった。意外だったのか、ゼノバスターまでもこちらに視線を向けている。あれ、間違えた...かな?


「......ぷっ。自分で言うかな? それ」


「カイン、あなたに触発されたんでなくて? やはり、あなたはジュノの教育衛生上よくありませんわ」


「なんだよ、それ......」


俺たち3人はようやく笑いあって静かにお互いの絆をかみしめ合った。






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