20:上へ、上へ

 2フロア目からはみんなの調子も上がっていき、一気に16フロア目まで迎えていた。ただ、100階というとまだまだ序盤の方だ。リーダー交代の50階地点もまだだし。ただ、こうやって順調に登っていければいいんだけどなぁ......。

すると、17階へ向かう階段の前で邪魔をするように焚火を囲む集団があった。人間ってことは、多分勇者だよな? でもなんで6人仲良く?


「どうなってるんですの?」


「なんで6人もいるんだ、ここに」


「あんたら何してんの?」


素直な疑問を投げかけると、彼らは立ち上がった。その先頭に立つ一人の男が今にも手を出そうとする連中を引き留めようと手を挙げ口を開いた。


「まあ待て。お前たちがドベパーティーか。ちょうど、お前達を勧誘しようと思ってな」


「勧誘? 徒党を組むってことかい?」


「俺達が潰しあっても上位連中の思うつぼだ。なら、下なら下らしく有象無象の力を見せつけてやらないと。だろ? どうだ、俺達の最強チームに加わらないか?」


胸を張って言うってそんな自信があるのか? 先頭の男しか話してないけど、他の奴らの意思はないのか? ん? そういえば、なんか見覚えのある全身ピンクとシルバーの奴がいるな......。なんだっけ、こいつら......。


「さっきからなんなんだよ。お前」


「お前じゃない! 俺の名は、ショウ・オカザキ。ハーレム王になる男だ!」


「は? ハーレム? なんじゃそりゃ。ていうか、俺はあんたらのチーム興味ないけど?」


「珍しいですわね。私も同じ意見ですわ。私達はこのパーティーで頂上を目指しますわ。徒党を組むなど、ド三流の考えですわ~!」


「そうだね。いっぱいいると、僕が輝ける時間が限られちゃうから僕も嫌だね」


「いや、カインはまだなんにも役立ってないから」


そう言うと、先頭にいたショウは腕組みを始めて、腹の立つくらい気持ち悪い顔面を向けて来た。


「ほほう、このハーレム王様に楯突くとはおもしれーパーティーじゃん。それなら、俺達と勝負しろ。俺が勝ったらお前らを仲間に加える。お前たちが勝ったらお前たちの好きにしていいぞ」


「戦いなら、全員ぶっ飛ばせばいい話だよな! なら、俺に任してくれれば」


指をポキポキと鳴らして威嚇していると、ショウが両手でストップをかけて来た。お陰で俺は少し蹴躓いてしまった。


「ああ、ちょっと待って! ただ殴るだけじゃ面白くねえだろ! ......そう、これは勝負だ! 名付けて『チキチキ! モテ男No.1対決 3番勝負』だ!!  1人代表を決めて俺様と勝負しろ!」


「モテ男?」


「なにか、面倒なことに巻き込まれそうな予感がビンビンしますわ。ねえ、ゼノ」


「......」


ゼノバスターの関わりたくない感じがすごく、共感できる。こんな奴ら、無視していいだろ。ティルと俺で目くばせしてソロッと立ち去ろうとしたその時カインが前に出た。


「いいんじゃない? 僕が勝負に挑むよ。僕だって、役に立つってとこ二人にわかってもらわないとね? それに、勇者が勝負に挑まれたら逃げないものだよ」


「なんかごめん。じゃあ、頼むよ。カイン。やるなら絶対勝ってよ?」


「そうですわよ。それで、どうやって勝敗を決めるのですの?」


「後ろのレディたちが決めてくれる」


ショウが後ろを向いていけ好かない感じで手をクイクイとすると、全身ピンクの人と全身シルバーの人、そしてタキシードを着た女性の3人が並んだ。あれ、なんかピンクって男だったような気がするけど、気のせいか?


「勇者ピンク3代目でーす」


「勇者シルバーです」


「セバスチャンと申します」


「彼女たちが俺達の審査員ということだ」


それぞれ自己紹介してくれたけど、これこっち不利じゃね?


「そっちのパーティ―メンバーだとこっちが不利じゃないのか? ちゃんと公正な勝負にしてくれるんだろうな?」


「じゃあ、私も参加致しますわ。これで少しは平等でしてよ?」


「頼んだよ、ティル。あ、でもこれじゃ偶数じゃん」


偶数だと、引き分けになったら勝負にならない。でも俺が審査員になっても基準もなにも、俺男だし、理解できないだろうな。すると、向こうのパーティーから1人手を挙げて来た。


「じゃあ、リリィが出まーす! リリィのハートはレオ様のものなので、公平にできると思いまーす! これでいい? 文句の多いお兄さん」


「なんでよりよってレオなんだよ......。まあ、いいや。それでいいんじゃない?」


「じゃあ、始めるぞ! まず第1試合! 壁ドン対決! より華麗にレディをときめかせた方の勝ちだ!」


「壁ドン? こういうこと?」


俺は後ろの壁まで歩いて、そのまま壁を壊す勢いでドンと音を立てた。向こうを向くと、女の子たちは全員腕でバツを示していた。


「ノンノン! これだから筋肉ゴリラは」


「き、筋肉ゴリラ!?」


「若いジュノ君には少し早いよ。壁ドンマスターは」


「ええ......」


狼狽えている俺をよそに、ショウが我先にとティルの手を取り壁の方までエスコートしていった。その後、強引に壁に彼女を押し付け、彼女の顔擦れ擦れにドンと音を出しながら手を壁に当てた。


「お前も俺のものだ」


「......」


ティルは茫然自失なのか、目をパチパチとするだけだった。その様子を見てショウは高笑いを上げた。


「ハハハハ! どうだ、彼女は俺のファンサに耐え切れず失神してるぞ!」


「ふふ、それはどうかな」


「なに!?」


すると、ティルはちょこちょことカインの元へ歩き出し彼の背に隠れてしまった。


「きっしょ」


その一言が、俺を含むここにいた全員を凍り付かせた。

ティルの目も、ごみを見るような目なのは変わりなさそうだ。


「ふ、おもしれ―女。だが、俺は別に負けたわけじゃない。次はお前の番だ。カイン!」


「いいよ。じゃあ、お相手は君にしてもらおうかな」


「わ、私? 別にいいけど......。ショウに勝てる自信でもあるの?」


指名したのは全身ピンクの勇者ピンク3代目だ。ショウに目くばせしてたように見えたけど、大丈夫かな......。でも、不安そうに見つめる俺にカインはピースサインをしてきた。あれは、余裕の表情.........。なら、任せるしかないな。


「勝てる自信? あるよ。まず一つ、僕はショウくんより顔がいい。それはわかるよね?」


カインがピンクの顔に近づいた。かなりの至近距離だ。俺でも認めるくらいの整った顔だ。そりゃ彼女もリンゴくらい頬を赤らめるよな。


「そ、そりゃわかるけど......。でも、それだけじゃ点数にならないわよ?」


「わかってる。でも僕にはね、あんなふうに強引に壁までエスコートする必要はない。なぜかわかる?」


「わ、わかんないわよ」


「こうやって言葉を使い、顔圧を使い相手を追い込んで追い込む。そして、君は避けようと逃げる」


彼の言う通り、カインの圧力に負けてピンクさんがドンドン後ろの方へ退いていく。でも、このまま行ってもあのショウってやつとやり方は同じじゃ?


「でも、逃げないでほしいんだよ。僕はただ、話をしたいだけなんだ」


カインがピンクの腕をそっと掴む。でも、ピンクはそれを振り払う。でも、彼女の顔を見るに悪い気はしてなさそうだ。


「やめてよ。いろんな女、たぶらかしてるくせに! じゃ、じゃあ。これはどう? こんなヘタレて地面に座っちゃった女に壁ドンできるの?」


ピンクは地面に崩れ込み、這いながら後ろへ進む。その時、カインはちょっとだけ立ち止まった。


「そんなに僕が怖い......? ごめん、傷つけるつもりじゃ......。でも、みんな僕を見るとそんな感じなんだ。だれもが僕を除け者にする......」


「い、いや! そんなつもりじゃ!」


ピンクが少し立ち上がろうとしたとき、カインが動き始めた。彼はピンクを立ち上がらせようとせず一気に床に落とし、そのまま足でドンと床を踏んだ。


「ゆ、床ドンだと!?」


「じゃあ、どういうつもりなの?」


「あ、あの......。えと、いや! これ、壁ドンじゃないし! 論外!! 終わり、終わり!!」


「そ、その通りだぜ!! 勝負あったな!! おい、ゴリラ野郎! みんなの集計とれ!」


「え? 俺?」


急に俺に振られてもと、思いつつも俺は息を整えて彼女たちの意見を聞くことにした。


「じゃあ、今の対決でショウくんがよかった人!」


手を挙げたのは勇者シルバーとリリィだ。二人!ということは......。


「カイン君がよかった人!」


1、2......3! 残り全員挙げたぞ!!


「普通に、顔のいいカイン様の勝利ですわ」


「さ、最悪......。今、どういう気持ちであいつを見ればいいのよ! 責任、とってよね!」


ピンクがだいぶ顔を赤らめて怒り狂っていた。なんだろう、姉さんも昔カノンの写真集見せてって頼んだ時あんな顔してた気がするなぁ......。あれって、照れ隠しってやつなのかな。


「くっ、だが! 次は容赦しねえ!」


3番勝負、まだ少し長くなりそうだな......。






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