14:勇者の試練 破(アレグロ)
リオンに連れられて、俺達はシャスティア郊外にポツンと立っていた教会にたどり着いた。中に入ると、そこは無人で地下に繋がる階段だけがあった。
「ここから列車に乗れる」
「地下への入り口? ていうか、列車ってなに?」
「説明がいるか? 今、この状況で」
「す、すいません」
リオンが地下の階段を降りて行き、俺達もそれについていくとフィドルが口を開いた。
「みすぼらしい恰好してるが、列車を知ってるってことはあんた貴族なんだろ? なんでそんな恰好してる」
「きらびやかな服は嫌いでね。だが、必要な時もある」
階段を下りきると、そこには整備された地下通路とこれまでの比にならない人がなにかを待っていた。 彼らの目を気にしつつ、リオンが着ていたローブを脱いだ。すると、中から明らかに高級品で見繕った男性服があった。だが、顔立ちも髪も女性のようにしなやかでキラキラとしている。
「お前、女なのか?」
「女で悪かったな。だが、私は貴族の嫡男として育てられた。......私のことはもういいだろ。列車に乗り遅れる」
彼女は綺麗な歩き方で、通路を歩いて近くにいた男になにか話始めた。それが終わったのか、俺たちを招き入れた。
「次はすぐにくる。首都まではだいたい5分くらいで着くらしい。走って行っても30分はかかる。かなりの短縮だろ?」
「こんな便利なもの、どうして貴族だけ」
「そこだ。そこが問題なんだ。だから、私はこの体制を変えるためショーの出資者になった」
「出資者に? 勇者になればいいんじゃないの?」
「なれないんだよ。貴族が勇者に......。誰もが勇者にってのは訳が違う。ほら、列車が来たぞ。お前ら、これが列車だ」
ゴーッという風と共に現れたのは箱のようなものだった。それは、馬で引かれているわけでもなく自力で走っている? ようだ。 これが列車というやつか。これも、姉さんの見たがってた異世界の技術で作られたものなのかな。俺達は不思議そうに列車を見つめながらその中に乗った。そこには椅子がたくさん並んでいた。全員座れるくらいには余裕がある。
「歩いていくのがバカバカしくなるだろ?」
列車が動き出すと、少し体が動いた。だが、それは一瞬でその後はガタンゴトンと音を立てながら動き始めた。
「そうだね。やっぱり、気になるな。君が出資者になった理由もあそこで浮浪者の真似事をしてたことも」
俺はリオンの事が気になり、少し切り込んだことを聞いた。だが、リオンはこちらに微笑みかけるだけだ。
「私に惚れたのか?」
「べ、別にそういうんじゃないよ。ただ、力になれないかなって」
「お前は優しいな。そういう優しさがあったから記念碑を守ってくれたのだろう?」
「記念碑を守った俺達だから、俺たちに賭けてるのか?」
「そうだ。お前達は私の理想の勇者だ。だが、どちらかを選ばないといけない時がくる。それは今回のショーで決めたい。だから、このショーで君たちのどちらかには絶対ラストワンになってほしいんだ」
リオンはピンと背筋を伸ばし、周りの人たちの目を気にしながら両脇の俺たちに淡々と語った。観客がいるってこの前知ったばかりだけど、みんな勇者のこと
「素性のわからない、しかも俺達のこと賭け事に使ってる連中の言葉を聞くと思うのか? 俺は嫌だね。サポーターってんなら俺の野望の一つくらい叶えて見せろってんだ」
「妹さんの、救助のこと?」
妹?フィドルに妹なんていたんだ。ギャンブル旅の他に願いがありそうだとは思っていたけど......。でもそれとギャンブルと何が関係してるんだ?
「な、なぜそれを......」
リオンの言ったことは真実のようだ。フィドルはひどく動揺していた。それに合わせて列車が酷く揺れる。
「妹?」
「......。唯一、血の繋がった家族だ。だが、親父の遺した借金の肩代わりにやつは賭けの景品になってやがる」
「だからギャンブルの旅に?」
「親父からの受け売りで、俺もギャンブルにハマって親子そろってバカだけど......。妹だけは助けなくちゃいけねえ。俺にはその責任がある......」
「そう、だったのか」
「だからって俺を贔屓するなよ、ジュノ。俺達は勇者だ。敵同士だ。刺し違えてでも俺は自分の願いを叶える。お前に負けたままなのも悔しいしな」
「当たり前だ。もう悩まないって姉さんと誓ったんだ。この手で失った命は取り返して見せるさ」
そう言うと、列車の動きが遅くなっていった。シューという音共に列車の扉が開いた。どうやら首都ホリポリスについたようだ。
「着いたぞ。もう負けるんじゃないぞ? ジュノ、フィドル」
「ありがとう。ねえ、また会える?」
「それは君がこのショーを勝ち取ればわかるさ。ほら、早くいけ」
俺達はリオンと別れを告げ地下の駅から飛び出していった。
その先から光が差し込み始めていくと、やっと地上に出た。そこは、シャスティアとは比べ物にならないほど発展した都市が広がっていた。これまで見たどんだ町並みよりも四角く、馬もなく自然も少なく、最も目立つのはウオロイ山よりも高そうな中心に立つ塔だ。その手前に豪邸のような建物がある。あれが議事堂ってやつか?
「あれが共和議事堂だな。ああ、いるいる。他にも俺達と同じく姫の到着を待ってる奴らが......」
フィドルの指さす方向には、議事堂前で立ちつくす数人の若者の姿だった。たしかに、姿と顔を見たことがある気がする。かなり遠くて見えにくいけど......。
「ああ、何人か見たことあるね。じゃあ、ここで待つ? それとも」
「女が来る前に全部ぶっ潰す! それ一択だろ」
二人で議事堂に向かうも、その後ろに1人、また一人と人がついてくる。勇者なのか? いや、こんな人数いない。今参加している勇者は10人なのに、今ついてきている人はその倍近くはいる。
「なんなんだ、あの黒ローブ達」
「知らないけど、気になっちゃうよね」
立ち止まると、追いかけていた人たちもピタっと立ち止まった。その精密さに少し気味悪さを感じていると、彼らの目が光りだした。
「ジュノとフィドルを発見。違反行為者を排除!」
1人の男が機械的な声でこちらに襲い掛かる。だが、その動きはその声の通り機械的ですぐに避けて反撃するくらいには覇気がない。なんなんだ? この人は。
「なんだなんだ?」
「もしかして、列車を使ったのがまずかったのかも」
「じゃあ、あのリオンってやつに文句言わねえとな......」
二人背中合わせになるくらいに、人に囲まれ追い込まれはじめた。
こうなったら、仕方ない。地面に伝える振動で、周りの敵をフッ飛ばす!
「破魔震伝流 ‐威振伝震‐!!」
俺が強く地面を叩くと、敵はその振動で割れた地面に吹き飛ばされていく。だが、その攻撃にめげずに彼らは立ち上がる。体はボロボロのはずなのに、なんで動いていられるんだ!
「おい、効いてないぞ!」
「いや、効いてるはずだけど......。おかしい、まるで死体が動いてるみたいだ......」
カクン、カクンと足や腕を引きずりながら俺たちを謎の人たちが再度囲みだす。くそ、今頃秘技を出した時のダメージがこっちに来やがった。
「もう一回だ! ジュノ! ......ジュノ!?」
「悪い、さすがに疲れが......」
その時、空から矢が何発も降ってきた。矢の先端が地面に当たっていくと、煙のようなものが噴出してきた。
「煙!?」
「今のうちだ! お前達への最後の手向けだ!」
煙が立ち込めすぎて姿は見えないものの頭上から、リオンの声が聞こえた。彼女にはお世話になりっぱなしだな......。
「リオン!? ありがとう!」
俺達は煙と人を掻き分け、走り出した。煙もなくなって、走っていると前方に女性二人が同じように走っていた。もしかしてと思って、二人のところまで全力疾走したら、まぎれもなくアニさんだった。それに、あの紫の衣装、もしかしてジュエル?
「アニさん!?」
ジュエルもこちらに気付いたのか、俺たちを見て嫌な顔をした。
「げっ!? もういるの!?」
「おいおい、たなぼたかよ」
俺達は逃げる二人を追いかけた。
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