第10話 恋慕

 放課後。

 生徒がまばらになり、下校の鐘が校内に鳴り響く。生徒たちはみんな帰り、教室内には鷲しかいない。日直だった彼が真面目に日誌を書いていると、教室のドアが乱暴に開き、御堂嶽尾が入って来た。


「おい、鷲。まだ帰らないのか」

「ああ、これを書いたらな。お前は先に帰っていいよ」


 御堂は無言で鷲の前の席に座った。鷲はちらっと彼に視線を流す。そしてまた、シャーペンを走らせた。カリカリとペンを走らせる音だけが、閑散とした教室に響いた。


「それでどうするんだ」

 御堂がポツリと呟いた。


「何が?」

「何って、彼女に決まってるだろ。そのためにわざわざ転校してきたんだろうが。付き合わせられる俺の身にもなれ。いきなり『彼女を見つけた』なんて言い出してさ」

 御堂は不貞腐れたように口を尖らせ、鷲を見る。彼は手を止めて顔を上げた。


「ああ、つき合わせて悪かった。彼女が前世を思い出すかどうかも分からないのに」

 鷲は教室後方の席を見つめた。彼が見ているのは冬華の席だ。


「まぁ、お前の静に対する執念は並じゃないからな。他の妻たちはいいのかよ。最後まで連れ添って、命を落とした人もいるというのに」

「確かに良く尽くしてくれたとは思うし、感謝もしている。けれど」

「静は違うと」


 彼は小さく頷いて視線を御堂に移す。そしてはっきりと告げた。

「彼女は僕が自ら見初めた唯一の人だ。そして、再び巡り会った。今度こそ、添い遂げたい」

「でもさぁ。もしも、今の静が別の男を慕っていたらどうすんの? ここまできてそれはあんまりだよなぁ」

 茶化すように御堂が言うと、鷲は穏やかに微笑んだ。

「彼女が幸せであるなら、それでいいよ。けれど、そうでないのなら奪うまでだから」

「相変わらず突っ走るねぇ」

 御堂は声をあげて笑った。


「それにしても分からないことばかりだ」

 日誌を書き終えた鷲は、そう言って両手を伸ばし大きく伸びをする。

「確かにな。お前が静に会いたいだけなら、俺まで転生する必要はないだろうよ。なんで覚醒しちまったんだろうな。他にもいるのかねぇ。俺たちみたいなやつが」

「さぁな。彼女以外にもいるのかもしれないな。この世のどこかに、同じ時代を生きた人間が」

「ところでさ、今度の休みはどこに行く?」

 彼らは、休日の度に日本国内のあらゆる地を巡っていた。


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