【第一章・第三十一話】魔力の暴走



「ほ、ほら、入団すれば安定した生活も得られるし……ほら、ココだけの話、実際お給料だって悪くないんだよ?」


「功績を上げれば、それに見合った褒美も与えられるんだ。地位、名誉、権力、土地、財産___欲しいものなら、なんでも手に入るぞ?」



 どこまでも往生際の悪いその態度に少し腹が立つ。わたしがそんなもので釣れるような人間だとでも思ったのだろうか。本当に、人を舐めるのも大概にしていただきたい。



「貴方がたは、わたしを侮辱しているのですか?」



 そう言い放った声には、明らかに苛立ちと怒りが含まれている。わたしの言葉に少し我に返ったのかして、フィノファール様はハッとしたかのような表情を浮かべた。だが、隣の第二皇子はそんなことにも気付かず、一方的に話を進める。



「そんなわけがないだろう。この国のために命を捧げるという行為が、どんなにも素晴らしいことか君には理解できないのか?」



 その言葉に、わたしは絶句した。



「まあ、ミセリア地区に住むような者がお前を育てているのだとしたら当然か」


「ちょっ……アイオライト、それはさすがに言いすぎだって!」


「……今、なんとおっしゃいましたか?」



 こみ上げてくる怒りをかろうじてこらえているわたしに対して、第二皇子が馬鹿にするように鼻で笑った。先程からの発言から少しずつ気持ちが引っ掛かっていたが、どうやらこの方は、どこか人を見下したような言い方しかできないようだ。



「ああ、聞こえなかったのか?師が師なら、弟子も弟子だと言ったんだ。ティア、君には失望した。そのような意欲のない人物はこちらから……がはっ!」


「今……なんと?」



 目の前の男が、なにやら喉を押さえて藻掻き苦しんでいる。だが、そんなことよりも、今は自分の怒りを鎮めるほうがわたしにとって大切だった。


 皇国フリューゲル遊撃騎士団。戦争の際に最前線で戦うということは、それはつまり、文字通り命を賭して戦うということと同じだ。もちろん、そのときは必然的に、皇族は守られる立場となるだろう。


 なのに、この皇子は、あまりにも____人の命を、軽んじ過ぎている。



「訂正していただきます。お師匠様は、貴方のような愚かな人間に見下されても良い御方ではございません」


「ぐ…あ”あ”あ”あ”ぁ……!」


「な、なに、この魔力……!?……ウソ、制御が効かないなんて……!」



 身体中の熱があちこちを暴れまわっているかのような感覚がする。だが、わたし自身も、その熱を抑えきることが出来ない。



「わたしこそ、アイオライト様には失望いたしました。サフィア様の代わりに表舞台へ出ているとはいえ、なんと傲慢な……本当に残念です」



 息が出来ないのか苦しそうに呻く彼に対して声を掛けながら、わたしは第二皇子へと手のひらを向けた。わたしは、正しい魔法の使い方……基礎さえも学んでいない。だが、わたしには『素質』があるようなのだ。


 あのときのお師匠様の言葉を、ようやく本当の意味で理解出来たような気がした。



「貴方は、この国には必要ない存在です。


 煉獄よ、我が魔力を喰らえ。集え、従え、我に平伏せよ。そして、命ずる。森羅万象を蹂躙せよ。最も仕えるに相応しい者が誰かを知るがいい――、


 ____アルスマグナ・プルガトリウム……!!!」

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