【第一章・第三十話】騎士団への勧誘
「おい、フィノファールっ……!」
「あははっ、ごめんごめん!でも、ティアならきっと、ボクたちの期待に応えてくれると思ってさ」
「だが、父上に口止めされていただろう!?国家機密だぞ、分かっているのか!?」
「うん、分かってるよ。だから、全ての責任はボクが取るって言ってるんじゃん」
軽やかな笑い声を辺りに響かせるフィノファール様は頰と口との周りに微笑を作っていたが、その目はまったく笑っていなかった。ただ、冷めたような視線を、激昂している第二皇子へ浴びせている。だが、どうやら彼はそれに気付いていないようだった。
「まあ、ティアもその国家機密を聞いちゃったわけだし……タダで帰れると思わないでよね」
「えぇ……さすがに横暴すぎません?」
サフィア様が昏睡状態に陥っていることをわたしが知っても、彼らにはなんの影響もないだろう。ミセリア地区に住んでいる正体不明の小娘の戯言を誰が信じるというだろうか。最悪、信用毀損や業務妨害罪として訴えられかねない。
「そもそも、わたしにそんな情報を流したところで意味がありませんよ。なのに、わざわざ脅すような真似をして……いったい、なにが目的ですか」
「ふむ、随分と賢いんだな。フィノファール、これは正直に話した方が良いんじゃないか?」
「それもそうだね〜。じゃあ、単刀直入に言おっか。
______ティア・シュヴァルツ。
皇国フリューゲル遊撃騎士団に入団する気はないか?」
先程と同じように口調を戻したフィノファール様は、少しの圧をかけながらわたしにそう尋ねる。なるほど、さすがは他国から『パラベラム』《戦争の準備》というスパイとして恐れられている人物だ。普通の人間であれば、その威圧感で咄嗟に頷いてしまうかもしれない。
「いえ、結構です」
「「……え?」」
騒がしい喧騒の中、二人の間の抜けた声だけが鮮明に聞こえた。考える素振りなど見せずに即答したわたしに対して、フィノファール様はこれ以上ないほどに目を大きく見開いているし、第二皇子はその黒鷺の瞳に心底仰天したような色を浮かべている。
話の流れからして、わたしを何かに利用したいのだろうということくらいは読み取れるだろう。残念ながら、わたしは人の感情に敏感なのだ。だが、だからといって皇国ヴォラトゥス偵察騎士団長であるフィノファール様を凌ぐほどの実力はない。
まだわたしが幼いからとでもいう理由で、油断でもしていたのだろうか。……実際、そんなにも年は離れていないのだと思うのだが。
「い……いやいやいや、あの皇国フリューゲル遊撃騎士団に入れるせっかくのチャンスなんだよ!?入団後は出来る限りサポートしてあげるし、皇帝にはボクたちからも口利きしておいてあげるからさ〜!」
「な、なあ、今からでも考え直さないか?あの皇国ヴォラトゥス偵察騎士団長、フィノファール・フェリキタスから直々に騎士団へ勧誘されるなど、どんなに光栄なことか理解しているのだろうな!?」
「ええ。謹んでお断りさせていただきます」
慌てた様子で騎士団の宣伝をし始める二人を前に、わたしはバッサリとその言葉を切り捨てた。
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