【第一章・第二十七話】わたしの魔力
「急に雰囲気が変わりましたね、フィノファール様……」
「まあ、一応、皇国ヴォラトゥス偵察騎士団長をやらせてもらってるわけだし、スパイならボクだと分からないようにしないと、でしょ?」
「一応、は謙遜が過ぎるんじゃないか?『フィノファール・フェリキタス』という名は、随分と民衆から親しまれているようだ。……オレも、お前のような優秀な騎士であり、優しき友人がいることを誇りに思う」
えへへ、と先程の様子からだと想像もできないような、可愛らしい笑顔を見せたフィノファール様。それを微笑ましそうに見つめながら、第二皇子は本当に誇らしげにそう言った。
「わたしも今までお姿を拝見したことはありませんでしたが、フィノファール様のことは存じております。とても慈悲深く、聡明で、『黒鳶』と『飛翔』の名を背負うに相応しい方だと」
「もー、そんなに褒めても何もあげないよ?……そういえば、まだキミの名前を聞いてなかったや。ねね、教えてよ!」
「ええと……ティアです。ティア・シュヴァルツと申します」
わたしの名前。それは、間違いなくティアだ。かつて付けられた重苦しい名は、わたしには眩しくて、なによりも醜かった。だが、お師匠様のおかげでわたしはその使命から解き放たれ、もう二度とその名を使うことはないだろう。
お師匠様から授かった、このティア・シュヴァルツという名を、わたしはとても気に入っている。そういえば、以前、お師匠様が店の名前のミラージュ・ドゥ・シュヴァルツから、わたしの名を取ったと言っていた。
であれば、一度、お師匠様の姓はミラージュなのではないかと勘ぐったことがある。響き的に数年前滅びたある国のようなニュアンスだが……もう、あの国の者は殲滅されている。恐らく、気のせいだろう。
「ふむ、ティアか。良い名ではないか」
「シュヴァルツって、結構珍しい姓だね。もしかして、騎士の家系だったりする?」
「いえ、そういうわけではないんです。わたし、もともと捨て子で……お師匠様が引き取ってくださって、この名前もお師匠様から付けてくれたものなんです」
ほとんどは事実だが、本当は少し嘘が混ざっている。というか、嘘をつかざるをえない。下手に口を滑らせれば、わたしの首が飛ぶことになるだろう。
「そのお師匠様って人、ミラージュ・ドゥ・シュヴァルツの店主をしてるんだよね。……もしかして、魔族なの?」
「分かりません。そのことについてお師匠様はあまり話したがらないので……それが、どうかしたんですか?」
魔族は、自分よりも高位な魔族に従い、跪くと言われている。『ススピーリウム』を訪れたときの店主の反応からして、既に察せられるものがあるが……お師匠様の口から明言されたことはないので、わたしのただの推測だ。
「人が魔力を持たないってことは知ってるよね。だから、ボクたち騎士は専用の魔導具を使用して体内に魔力を巡らせるんだけど___」
フィノファール様の視線が宙を彷徨う。彼女の唇が、躊躇いがちに少し開いて、また閉じてを何度も繰り返した後、意を決したように言葉を紡いだ。
「___ティア。キミからは、魔力の気配が感じられる。それも、尋常じゃないほどの魔力を」
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