死を見る

 四月。地元を飛び出した僕は広島の市内へと逃げ伸びました。まずは寝泊まりをする場所を見つけるべく、カプセルホテルを探しました。しかし、当時カプセルホテルは無く、仕方なくまたネカフェを探すことにしました。


 見付けたのは駅前と街中。特に駅前のネカフェはシャワーとタオルが無料で更に朝食のサービスが付いており、非常に重宝しました。現在はどちらのネカフェも潰れてしまい、少し寂しいです。ネカフェ業界自体が今非常に苦しいみたいですね。


 フードも安く、空揚げ丼とフライ盛り合わせをよく頼んでいたのを覚えています。心身ともに疲れ切り、将来の事を何も考える気に慣れなかった僕は暫くはネカフェ生活を続けていました。


 ひたすらに漫画を読み漁り、ひたすら小説を書いていました。作業用BGMにとあるゲームのBGMを流し続けていましたが、今でもその音楽を聴くと当時の事を思い出し、複雑な気持ちになります。良くも悪くも、辛い時に聞いていた音楽はよく覚えてますよね。


 もう心は完全に死んでいました。祖母から連絡が入って居ましたが全て無視していました。どうにでもなれ、と、就活も止め、ただ漫然と日々を過ごしていました。お金は有限なのでたまに街中で一晩過ごす時もありました。


 適当に歩き回って、疲れたらしばらく休む。その繰り返しでした。


 とある公園の河原のベンチがあったのですが、当時は良くそこを根城にしていました。


 とにかく自分をどんどん惨めな気持ちに仕向け、自殺するように自分で自分を追い込んでいたように思います。


 そんなどうしようも無い日々が続いていたとある日、いつも寝ていたベンチに黒い塊が置いてあるのに気づきました。ゴミ袋かなと近付いてみると、それは猫でした。


 がりがりにやせ細った黒猫でした。あばらがくっきりと浮き出ており、目やにが酷く、息もか細かったです。見るからに野良猫でしたが、触っても逃げようとはしませんでした。逃げる体力も無かったのでしょう。良くこの身体で生きていられるものだと、触れた指先から伝わる感触に気味の悪さを抱きました。


 隣に座り、背中を撫でてやると掠れた声で鳴きました。


 僕は何故か無性に腹立たしくなりました。悔しいという感情が沸々と溢れ、気付けば僕はベンチに荷物を置いたままコンビニに駆け込み、水と紙コップと猫のおやつを買っていました。


 境遇を重ね合わせていたわけでもなく、同情していたわけでもありませんでした。この時の感情は今でもよくわかっていません。


 猫は僕の振る舞いを素直に受け入れてくれました。水を懸命に飲んだ後、おやつも全部食べました。気付けば猫は僕の膝の上に乗って来ました。丸くなって寝始めたみすぼらしい黒猫を、僕は一晩中撫でてやりました。


 朝の四時頃。猫が動かなくなっていたことに気付きました。


 いつからだったのかは分かりませんでした。撫で続けていた身体は鼓動を失っても微かに温もりを残していました。


 僕は残っていた水で顔と手足を綺麗にしてやると、静かになった猫を暫く撫で続けていました。陽が昇り、散歩する人達がベンチに座っている僕に挨拶を投げてきましたが、僕は敢えて無視しました。


 その後、誰も居なくなった頃合いで、公園から河原に続く階段を降り、適当な所に埋めてやりました。


 その時の僕が何を思っていたのかは思い出せませんが、雨が降って来たのでさっさとネカフェに避難したことは覚えています。

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【実話】ホームレス日誌 まさまさ @msms0902

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