本気で親を殺そうとした話②

 昔祖母が使っていた四畳半の部屋を借り、履歴書を書いたりパソコンで仕事を探したりハロワに顔を出す生活が続いていました。最初こそ希望が灯っていましたが、一週間経過し何も進行しない現状に焦りが募って来ました。


 祖母の優しさが逆に辛く、居候を初めて十日ほど経過したところで僕は罪悪感に耐え切れず、祖母には適当な理由を告げて荷物を纏めてネカフェ暮らしへ戻る事にしました。とはいえ祖母も僕と会えるのを嬉しく思ってくれていたので数日おきに泊まりに行っていました。


 暫くその生活を続けていると、兄が僕を追い出せと祖母に怒鳴っているのが聞こえました。兄に明確な殺意を抱きましたが、しかし祖母の優しさに甘えているのも事実。余計に居心地が悪くなった僕は、本格的に祖母と離れる事を決意します。


 そんな時、事件は起きました。


 祖母が僕と僕の両親の仲を取り持とうと僕に嘘をつき祖母の家に両親を呼び出していたのです。気付いたきっかけは、祖母の携帯電話の着信。呼び出しが鳴っていたので耳が不自由な祖母の為に持って行ってやろうと携帯電話を手に取ると、そこには父親の名前が表示されていました。


 何の電話?問うと、いとこからの電話と嘘をつかれました。その瞬間、僕は色々と察し、両親が生理的に無理かつ祖母に嘘をつかれたという事実に極度のパニック状態に陥りました。


 実家から祖母の家ま歩いて二十分ほど。父親への連絡は十分ほど前。もう僕は完全に発狂し正常な思考は不可能でした。


 逃げなければ。と寝間着のまま慌てて荷物を纏めます。しかし、もし道中で鉢合わせしてしまったら?そうなればもう殺すしかない。耐え切れない。心が壊れる。そんな感じだったと思います。気付けば僕は顔をぐしゃぐしゃにしながら台所の包丁を手に取り外に出ようとしていました。


 そこに祖母が立ち塞がり、殺すなら私を殺していけ!と怒鳴ってきました。そこで微かに正気に戻った僕は、そんなことできるかと叫びながら包丁を壁に突き刺し、家の裏口から飛び出しました。


 途中で父親に出くわさない為に裏庭の六メートルぐらいの崖を荷物を背負ったまま素手で昇り、山の方へ逃げました。幸いにも出くわすことはありませんでした。


 山へ山へと汗まみれになりながら逃げました。振り返ると、地元の街に夜の灯りが踊っていました。ひたすら泣いた後、もうこの町には居られないと、祖母の家を避けながら山を下り、電車に飛び乗りました。



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