本気で親を殺そうとした話①

 多くの人に助けてもらって何とか生きていたましが、それは嬉しい反面申し訳なさも大きくなり、更に家族と前の職場の影響で発症してしていた鬱と、そして不安と惨めさに耐えきれませんでした。


 兎に角温もりと安心が欲しかった僕は、恥を忍んで祖母の家に転がり込むことにしました。これを書いている時点ではもう祖母の家は潰れ、祖母は僕の両親と暮らしていますが、当時は祖父の居なくなった家で猫と居候の兄と三人で暮らしていました。


 兄は僕が来ることに否定的でしたが、祖母は暖かく迎え入れてくれました。それがまた罪悪感を刺激したのですが、背に腹は代えられませんでした。


 その日の事を、僕は鮮明に覚えています。


 インターホンを鳴らしてから足音が聞こえて来た時は、逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。扉が開いた時の祖母の一瞬びっくりした様子と嬉しそうな笑顔は一生忘れる事は無いでしょう。


 家に上がり、四畳半の部屋に通された時、僕は安堵のあまり泣き崩れました。屋根があり、プライベートな空間であり、人目を気にせずとも良い。それがどれだけ有難い事なのか痛烈に感じていました。


 僕は急いで洗濯し、風呂に入りました。実に三か月ぶりの家の風呂です。


 風呂から出ると、祖母が夕飯を作ってくれていました。僕の大好きな卵焼きとみそ汁。そしてラッキョウの漬物でした。泣きながら食べまくりました。ご飯も三杯お代わりしました。


 祖母も久々に誰かと食事が出来て嬉しいと言っていました。兄は居候していますが離れで暮らしており、社交性は無くきつい性格の為祖母と会話も無かったようです。つまり、ほぼ無料で家を借りていただけの冷血漢でした。


 僕は落ち着いた後、祖父の仏壇に手を合わせ、改めて祖母に礼を言い、仕事が見つかるまで置いてほしいと頼みました。祖母はそれを快諾し、飯は出してやるからしっかりやりなさいと励ましてくれました。


 僕に両親と呼べる人間は居ませんが、素晴らしい祖父母に恵まれたのは不幸中の幸いでした。


 子どもの頃は家に居るのが嫌でよく泊まりに来ていた祖父母の家。またここの世話になるとはと思いましたが、その時の僕は再び希望を取り戻していました。


 しかし、その平穏も長くは続きませんでした。



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