人情の洋食

 三月。厳寒も去り、次第に汗を感じ始める季節になってきました。


 ネカフェに泊まり、朝目が覚めたら二時間ほど河原のベンチやコインランドリーで時間を潰し、九時になればハロワへ向かう。その後は主に図書館で時間を潰し、二十一時になったらネカフェへ行く。そんな生活の繰り返しでした。


 サクッと書いてますが、やる事も無く、将来の焦燥にかられながら無為に時間を潰す辛さは尋常ではありません。脳みそが小さくなったような感覚に陥ります。思考能力は完全に低下し、何も考えない置物と化していきます。


 よく無職が羨ましいという声を聴きますが、それは飽くまでもお金にも生活にも余裕がある場合であって、そうでない無職は本当に地獄です。お勧めできません。


 食事に関しては幸いにも助けてくれる人が多く居ました。人見知りせず外交的で明るい性格だったおかげで地元の商店街の人達とは仲が良く、中でもとある商店街の小さな洋食屋のおばちゃんは僕の状況を知ると毎日無料でご飯を食べさせてくれました。


 一食千円もする定食を何のためらいも無く出してくれました。それどころか毎回のようにお代わりしろと言ってきました。


「お金は無いし、将来的にも返せない可能性が高い」と伝えると、「困った時はお互い様。遠慮せずたくさん食べて元気を付けなさい」と励ましてくれました。本当に有難かったです。


 家庭はとても冷たく寂しいものでしたが、それ故によく家の外で活動していた僕は家族以上に家族のような人が多く存在していたと思います。このおばちゃんもその一人でした。


 時にはパン屋さんがあまりもののパンをくれたり、屋台のおじさんがうどんやおでんをご馳走してくれたりしました。


 世の中捨てたものじゃない。この時の僕はそう思っていました。この時は、ですが。

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