第54話 久しぶりの配信

 オークションがあってから更に半月ほど後。

 C国との暗闘にもある程度かたが付き、俺と鳴海は新しい家へと移住した。

 住んでいる場所は以前とはまた別の住宅地域で、その中の一軒家が俺と鳴海の家となった。


 そして俺たちが所在を明らかにすると狙われる可能性があるので、引っ越しの作業自体は俺達は参加せず。

 オンラインで遠くから指示を出しながら、守秘義務を結んだ引っ越し屋の人達に梱包をしてもらい、その運搬はダンジョン省の職員がしてくれた。

 

 そこまで上げ膳据え膳にされると流石に申し訳なく感じたので、取り敢えずお高めのおやつを差し入れておいた。

 やはり高めの和菓子は差し入れの品として使いやすい。


 さておき、これでようやくある程度俺たちの日常が戻ってきた。

 となると、そろそろ俺も欲求を収めるのが困難になってきた。


「ということでそろそろダンジョンに潜ろうと思うんだ」

「言うと思った。まあでも、お兄はダンジョンに生きてる人だしね。行ってらっしゃい」


 鳴海に相談したら1発でオーケーを出してもらえた。

 やはり持つべきものは趣味を認めてくれる妹だ。


 そのままついでにオークションでの売上利益をどうしたら良いか、考えてくれると嬉しい。

 取り敢えず投資信託に放り込んでるけど、あそこまで多いと一生かかっても使い切れない可能性が高い。


 だから何かしら事業に出資するなりどこかを支援するなりしたいのだが、なかなかこれが考えてみると思いつかないものだ。


「あ、でも配信はちゃんとしてよ。それと、心配して見てる妹がいるんだから、ちゃんと生きて帰ってくること」

「了解。ちゃんと生きて帰ってきますとも」

「うん。そこについては疑ってないから」


 妹からの信頼が、信頼が重たい……。

 個人的には結構馬鹿も無茶もやってるから、いつか死んでもおかしくないよなーと思っているのだが。

 そのために鳴海のために口座をつくって、高い贈与税を払いながら数億円のお金を作ったり、俺が急に死んだ場合の覚書を残したりしているのだが。


 多分鳴海にバレたらキレられて泣かれるだろうなあ、と思いながら、俺が死んだ後に苦労してほしくないので俺も色々と考えて手を回しているのである。


 さておき、鳴海の許可も出たことだし、早速ダンジョンへと向かう準備をする。

 魔力操作を身につけることが、まだぎこちないながらも出来たので、それがどの程度スケルトン軍団に通用するのか試してみたい。


 後はそれに加えて、ホテルで軽く体を動かしながら考えた結果、近接での戦い方で新しい方針を考えついたので、それについてもちょっと色々と亡霊騎士相手に試してみたい。


 そんなわけで、鳴海が学校へ通学していくのを見送った俺は、意気揚々とダンジョンへと出かけるのだった。

 なお鳴海の護衛のために、新しい魔法具もいくつか開発して渡しておいた。

 

 俺がテイマースキルでも持っていれば、鳴海に護衛をつけられたんだけどな。

 ちょうど深淵第10層にシャドウ・ウルフという影に潜って潜伏することが出来るモンスターもいることだし。


 だがまあ俺はそこまで幸運では無かったので、おとなしく複数の魔法具を鳴海に使い分けてもらうことにした。

 認識阻害に防御障壁、そして遠距離からの狙撃を警戒した常時展開方の障壁魔法具。

 他にも俺に鳴海の危険を知らせる魔法具とか、本当に色々とたくさん作った。

 

 おかげでホテルで暇だった時間がある程度潰れたのはちょうどよかった。


 



******





 ダンジョンに潜ってまずはいきなりだが深淵第11層まで移動。

 これはいつも通りではあるが、なんだかんだで1ヶ月以上期間が空いていたので、下手をして死なないようにといつも以上に注意を配っていた。


 そして何事も無く第11層に到着して、テントをはり野営の準備をする。

 地上ではアウトドアとか特にしない人間なのだが、ダンジョンのこの層で風に拭かれながら草原で野営しているとなんかホッとする。


 キャンプとかする人達はこういう気分なんだろうか。


 そして準備が整ったところで、久しぶりの配信を開始。

 事前に鳴海が告知をしてくれていたおかげで、大量の人が一気に俺の生配信に接続してきた。


 少し待って人の流入が落ち着いてから、俺はドローンに向けて挨拶をする。

 それにしてもいつもより人数が多いような。


「はいどーも、ヌルです。1ヶ月色々あって配信が出来ませんでした。まあ俺自身もダンジョンに潜れてなかったのでおあいこってことでお願いします」


:草

:潜れてないのストレスやったんやな

:(AR国語)これが深層突破者の配信? 本当かどうか気になって来たけど

:(R国語)深層突破したってマジ?

:(C国語)うちの国の偉い人達おこおこなんだけどどうにかして

:(F国語)もっと深層の先からアイテム持って帰ってくれ。もっと見たいしほしい

:(英語)ついにヌルも世界レベルになってしまったか。まあいつかはなると思っていたけど

:外国語多くて草

:(K国語)深層突破は絶対嘘。これだから日本は信頼できない

:ヌル英語以外できんのか?


「なんだこの外国語の数!!」


 久しぶりにコメント欄見るなーという思いで覗き込んで見れば、なんかとんでもなくカオスなことになっている。

 あれ俺の配信のコメント欄ってこんな多国籍だったっけ?


「何、この……何が起こってんの? 後俺日本語と英語以外喋れないから。『(英語)外国人諸君、俺日本語と英語しか話せないからそれ以外の言語でコメントするのは勘弁してくれ。いやコメントしてもいいけど読まんからな』」


:こないだのオークションの内容が世界中でニュースになった

:(英語)オークションにあれほど新しいものが出品されると、出どころが皆気になるよね

:ついに外国の一般人層にもヌルが補足されたってことだ

:(英語)英語なら答えてくれる? まじで深層突破したの? どうやって?

:ニュースになってたのはでかいだろうなあ

:AR国の王族さんもオークションで大人買いしていったんでしょ?


 なるほど。

 そうか、世界の主要人物が集まるオークションか。

 そりゃあ各国のメディアも何事かと注目するし、情報収集に来るだろう。


 そしてそこで、深層突破者というオークション以上に話題になるものを見つけて、それを一斉に報道した。

 おかげで俺の配信の同説が百万人を突破している現状があるわけだ。


「いやー、ここまで人が大勢来るのは流石に想定外なんだけども。もっとこう少人数で落ち着いた配信がさー……。まいいや。大半日本語わからんてことだしな。おらんも同じだ」


:むちゃくちゃ言い出したぞ

:(英語)彼はなんて言ってるんだい?

:(英語)もっとのんびりした配信がよかった。

 でも日本語理解できない人達ならいないのと同じか、って開き直ってる。

:(英語)俺たちもお前の話聞きたいんだが??

:まあマイペースに行ってこそのヌルだから

:自分のペースでやってくれて良いんだぞー


 そうね。

 マイペースが俺の基本。

 そこは外さずに行こう。

 じゃないと俺にとって配信がストレスになる。

 その時は俺は配信を容赦なく切り捨てるだろうが、それをもったいないと思う程度には配信を楽しくも思っているのだ。


「取り敢えず今回は、スケルトンに今俺がどれぐらい通用するかと、後はちょっと考えてる戦い方の開拓の方をやっていきたいと思ってる。期間はまあ、一週間から1月ぐらい? レトルト食品も色々持ってきたし、まあしばらく居座りますわ」


:またスケルトン特攻やるのか

:魔力操作とやらが使えるようになったらしいが果たしてそれでもどうか

:あ、そう言えば結局C国と揉めたのってヌルだったん?

:なんかC国が世界中からボッコボコにされてたのヌルのせい?

:これで国相手どってボコしてたらもう無敵じゃん

:(英語)しばらく配信しなかったのはなぜだい?


 あー、その話か。

 そう言えばしておかないといけない話だよな。

 そのときの内容については葦原さんから、『特に口止めすることはない、好きに話せ』という伝言を貰っているので、俺もあらましを説明することにする。


「あー先にその話ね。そのC国と揉めたやつ。そう、配信してなかったのは、C国に狙われてしばらく危険かなって状態だったから。ダンジョン省と警察が動いてくれたけど、それでも安全確保するまでにしばらくかかって結果配信はこんな遅くなった、って感じ。でまあ起きたことについては報道と国の声明が全てだよ。俺とA国の人が会談してたら俺の家に襲撃ぶっこんできた、って話。それ以外は俺は関わらないでホテルに引きこもってたからわからん。そもそも狙いが俺だったのかもわからん」


 実際推測は出来るけど、C国人の活動家とかスパイとかにどうやってダンジョン省と警察が対応したのかとかは俺は知らないし。

 そのあたりは推測で話すのはやめておく。


:ヌルを攻撃しようと思ったやつまじで勇気ある

:話を止めようと思ったんかねえ

:(英語)彼はなんて言ってるんだ? 翻訳できる人がいたら翻訳してほしい

:(英語)A国の人と話してたらC国の人に襲撃を受けて、全部排除できるまでホテルに隠れてたって

:ヌルにしては穏当な対応。殺したりしてないよな?

:普通に返り討ちで仕留めてそう

:そもそも自爆されてるからな

:そか自爆か

:(英語)おいおい、ヌルってやつは国に全部任せて引きこもる弱虫なのか?


「流石に俺は殺してねえよ。まあ拘束したら自爆されたけど。後お前、俺を弱いとか言ったやつ、よく考えてみろ。こっちは《分身》スキルを使える世界最強だぞ? しかも魔法陣魔法も使える。その上分身が死ぬ苦痛を恐れてない。俺がやろうと思えば、分身特攻で国の1つや2つ更地にするぞ? そうなるから俺は手を出さないように引きこもってたんだろうが」


 そのへん勘違いするやつが多くて困る。

 俺が暴力的解決方法しか知らないから、知っている偉い人達にお願いしたのだ。

 そうじゃなかったら向こうの国を更地にするまで無限特攻編始めるしかなくなるところだったのだ。


:怖

:よく考えたら歩く核兵器が無限に生えてくるようなもんだもんな

:そりゃ探索者が国の最高戦力とか言われますわ

:(英語)翻訳したら炎上しそうだけど翻訳。彼は、自分が分身で特攻し続ければ相手の国を更地に出来るし、国相手にはそれしか手段を持ってない。だからこそ自分は何もしないで、対応出来る人達に任せたんだ

 って言ってる

:(英語)オークレイジー

:(英語)分身で死を恐れないとか、それもう最強じゃないか

:(英語)取り敢えず刺激したらだめな爆弾だってことは理解した


「俺は基本ダンジョンで探索と訓練できてれば不満は無いから。だからどこの皆様も余計な手出しはせんでくださいな」


 全く、久しぶりの配信の一発目からカロリーの重たい話をさせないでほしい。

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