第46話 再掘削穴へ

 河原のキャンプ地を出発し、水の溜まった旧鉱山の入り口を横切り、山の斜面に作られた仮設の登山道を登るロリスたち。

 装備が軽いとはいえ、不安定な急斜面は体力をかなり消耗する。それでも、他の全員の荷物を担いだロリスは、平然とした表情で斜面を上っていく。


「お、おい! ロリスちょっと待て! 俺たちがついていけないから、もう少しペースを落としてくれ!」


「そうよ、もう少しゆっくりと」


「ロリスに頼むのは悔しいけど、お願い!」


 ゼニスをはじめ、マリーもエリサも予想外の急斜面に音を上げる。


「えっ? じゃあ、先にこの荷物を入り口に置いてくるから、みんなは自分のペースでゆっくり登ってきてください。入り口に荷物を置いて戻ったら、皆さんの背中を押しますよ」


 ロリスはそう言うと、登る速度を更に上げる。それを見て、唖然とするゼニス。


「あいつ、なんて足腰してんだよ? 信じられん! お前ら、知ってたか?」


 驚いたゼニスが後ろを振り返り、2人に尋ねる。


「知ってたけど、これほどとはね。狩人並みの脚力だと思ってたけど、本当に驚きだわ」


 息を切らしながら答えるマリー。


「そうね。あのレベルは、山岳地帯を駆けるレンジャー並みよ? それも一流の」


 山岳救助や荷物運びで活躍する一流レンジャーと同等とエリサは評価する。


 ロリスの背中は3人からどんどん遠ざかる。マリーとエリサはグリフォン戦でその凄さを体感して、知っていたつもりだったが、この急斜面でも速度が落ちないことに改めて驚く。ただ、その話を聞いたゼニスは、自分の頬を叩き、気合を入れた。


「いくらなんでも、後ろから押されるのは先輩冒険者として恥ずかしい。急ぐぞ!」

「そうですね、マリーさん、私たちも頑張りましょう!」

「ええ~、ロリスに背中を押してもらおうよ。その方が楽だよ」


 マリーは『楽をしたい』と提案するが、二人にそれを却下され、渋々速度を上げた。おかげで、ロリスに大きく遅れることはなく、背中も押されずに再掘削穴の入り口に到着。しかし、体力を使い果たしたため、休憩を取ることになった。


「ハァ……疲れた。しかしロリス、どんな鍛錬をやったらそんな体になるんだ?」


 前の試合で驚異的な力を見せ、今日は足腰の強さを見せたロリスに、息を整えたゼニスが尋ねる。


「鍛錬? そうだな、毎日、山で開墾作業をしたくらいかな?」


 同期のゼニスにだけ、タメ口で答えるロリス。


「具体的にはどんなことをしてたの?」


 興味を持ったエリサが話に加わる。


「あ、ええと、斧で木を切り倒して、枝を払って、根を掘り返して、一か所に集める作業の繰り返しですね」


 エリサに対する敬語が気になり、片眉を上げたゼニスが、ロリスの言葉遣いを指摘する。


「おい、ロリス。なんで俺にだけタメ口なんだ? というよりエリサに敬語は変じゃないか?  お前、相当年上だろ?」


 それに対し、平然と答えるロリス。


「いや、特に意味はない。ゼニスとは同期だからタメ口。エリサさんは年下だけどパーティーの先輩だから敬語で。マリーさんは年上でパーティーの先輩だから敬語だ」


『まあ、お前がオレに敬語を使えば、オレも敬語使ってやるよ』とロリスが付け加えると、ゼニスは何も言えず、話はそこで終わった。


 その後、誰も話さず、静かに休憩を続ける一行。しばらくして、みんなが回復した頃、ゼニスが声をかける。


「さあ、みんな息は整ったか? そろそろ行くぞ?」

「よし、行こう!」


 元々休憩など必要のないロリスは元気に返事をする。


「ええ~、もう少し休憩しましょうよ? ね、まだいいわよねロリス?」


 岩に腰掛け、うつむいているマリーは、まだ休憩が足りないと感じ、ロリスに休憩延長を求めた。ゼニスとエリサには却下されると分かっているからだ。


「何言ってるんですか、そもそもロリスは疲れてないでしょ? ほら行きますよ」


 もちろんマリーの提案は通らない。エリサに引っ張られる形で、ゼニスとロリスの後に続いて、再掘削穴へと進むのだった。

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